■ポイント□
〇GHG(温室効果ガス)排出量が大きい資源開発部門での気候変動緩和技術の研究開発が世界的に求められる
〇技術開発を促す制度設計を行う際には各国の研究開発戦略の特徴を踏まえた提言が効果的
〇世界特許分析で明らかにした研究戦略は気候変動対策に向けた政策立案に有用な情報
脱炭素社会に向けたソーラーパネルや蓄電池の普及拡大に伴い、金属資源の開発に伴うGHG(温室効果ガス)排出量も増加することが予想される。こうしたなかで、資源開発部門でのGHG排出量の削減技術の研究開発促進が世界的に求められている。
九州大学大学院経済学研究院の藤井秀道准教授とスウェーデンのルレオ工科大学のアンドレ ヤマシタ研究員は、世界特許分析による実証研究を行い、世界各国の資源開発部門でのGHG排出量削減技術の研究開発戦略を明らかにした。解明された各国の研究開発戦略の相違点や共通点は、気候変動緩和に向けた科学技術政策の立案に有用な情報として活用されることが期待される。
増加続く金属資源の採掘活動
脱炭素社会に向けて化石燃料から再生可能エネルギーへ、ガソリン車から電気自動車への転換が急速に進められるなかで、ソーラーパネルや電気自動車のバッテリーに用いられる金属資源の採掘活動も拡大傾向にある。その一方で、資源開発活動に付随するGHG排出量は大きいことから、排出量削減に向けた技術開発が世界的に求められており、特に金属資源が豊富な南米、オーストラリア、南アフリカで需要は高いと考えられる。
この研究の目的は、資源開発部門(採掘業、鉱物加工、金属加工)で、気候変動緩和技術(CCMT)に関連するイノベーションの推進要因を探ること。そのために、資源開発部門でのCCMTの変化を、⑴CCMTの開発優先度、⑵資源開発技術の開発優先度、⑶研究開発の規模‐の三つの要因に分解することで推進要因を特定する。
2001年から2016年を対象に世界知的所有権機関から収集した特許データを利用した実証分析を実施。分析結果から、中国や途上国では研究開発規模の拡大が、資源国である南米、オーストラリア、南アフリカでは資源開発技術の増加がCCMTの特許数を増加させる主要因であった。
加えて、日本、米国、欧州はCCMTや資源開発技術の二つの優先度の上昇が、CCMTの特許増加に大きく貢献していることが明らかとなった。最後に、CCMTの開発は、パリ協定や金属資源価格動向に影響を受けている一方で、その影響度合いは先進国と途上国、経済活動における金属資源依存度により異なっていることが明らかとなった。
今後はミクロな視点での研究活動展開
この研究では、国全体を対象とした気候変動緩和技術の研究開発戦略を対象に実証分析を行った。マクロな視点から国際的なイベント(パリ協定や資源価格変動)と国全体の研究開発戦略の変化の関係性を分析し、特徴を明らかにした。一方で、技術開発の主要なプレイヤーは民間企業であることから、企業の研究開発戦略に焦点を当てたミクロな視点からの分析も重要となる。
特に、資源開発事業を行う国際的な大企業が、気候変動緩和技術に対してどのような研究開発戦略を有しているのかを明らかにすることは、技術開発促進に向けた政策(例えば補助金や減税)の効果を詳細に推計する際に有用な情報となる。研究グループでは、今後は特許データベースを活用したミクロな視点での研究活動の展開を目指すこととしている。