中央大学の中島悠介研究員と山口真美文学部教授は、日本女子大学の金沢創教授とともに、生後半年以下の乳児では、物体の知覚を阻害する「逆向マスキング」という知覚現象が生じず、その結果、大人や高月齢の乳児が見ることができない物体を低月齢の乳児が知覚できることを明らかにした。
人びとは、物体が一瞬だけ提示されたとしても、それが何なのかおおまかに認識することができる。しかし、物体の提示直後に、同じ位置に他のものが提示されると、最初の物体の知覚が阻害され、その存在に気付くことができなくなる。これが「逆向マスキング」と呼ばれる視知覚に関する現象。脳内の高次の視覚領域から低次の視覚領域へ情報が伝達される「フィードバック処理」が妨害されることによって生じると考えられている。
フィードバック処理は物体の安定的な知覚のために重要であることがわかっているが、その発達過程はこれまで明らかになっていなかった。
そこで研究では、注視行動の測定をもとに乳児の知覚能力を調べる選好注視法を用いて、生後3‐8ヶ月の乳児で逆向マスキングが生じるかどうかを調べ、フィードバック処理の発達過程を検討した。
実験の結果、生後7‐8ヶ月児では逆向マスキングが生じたが、生後3‐6ヶ月児ではこの現象が生じず、高月齢児が見えない物体を知覚できていることがわかった。この実験結果は、6ヶ月以下の時期にはまだフィードバック処理が備わっていないが、6ヶ月以降になるとフィードバック処理が獲得され、その結果逆向マスキングが生じるようになることを示している。
これにより、生後半年を境に視知覚の処理メカニズムが大きく変化することが明らかになった。この研究知見は、生後間もない時期の曖昧な知覚から、安定して外界を知覚できるようになっていく過程の背景メカニズムの解明につながることが期待される。
この研究成果は、米国科学雑誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に掲載された(日本時間6月24日オンライン公開)。