2023年4月20日 VRでは触感などの効果不十分 筑波大教授が診療放射線技師教育で調査

仮想空間上でさまざまな場面をリアルに体験できることから、ゲームやビジネスへの応用が活発になっているVR(仮想現実)技術。医療分野でも、医師が行う手術のシミュレーションや医療従事者への技術教育での活用が検討されている。特に、放射線を使った高度な医療機器を扱う診療放射線技師の教育で、被ばくすることなく訓練を行えるVR教育システムの有用性への注目が高まっているなか、筑波大学の黒田嘉宏システム情報系教授らは、技能習熟度に与える影響を評価。従来の学習法と同等の効果が得られた技能項目がある一方で、触感やコミュニケーションを必要とする一部の技能項目では、習熟度を低下させることを明らかにした。さらに、自己学習では、一部の項目で、習熟度の自己評価が有為に高くなる(過大評価する)ことがわかった。黒田教授らは、「今回の研究は、VRn技術の課題について理解し、より効果的なVR教育システムを構築する必要性を示した」としている。

 

VR技術は発展途上

この研究を行ったのは、黒田教授と同大理工情報生命学術院博士後期課程2年の加藤健吾さん。「VR技術は発展途上であり、教育現場での活用にはさまざまな課題がある」との問題意識を踏まえて実施。診療放射線技師の学習にVR教育システムを活用し、学習に与える影響を評価した。

ゲームやビジネス現場で注目されているVR技術は、医療分野でも注目されている。医療行為は人命に影響を与える危険性を含んでいることから、VRを用いたシミュレーションにより、事前に危険性を低減できると期待されている。また、医療技術者として放射線を用いる診療放射線技師は、学生の訓練段階では人体に放射線を照射して撮影することは許されていない。

もし、VRによる訓練が実現すれば、仮想空間内で撮影体位訓練だけでなく、その状況を反映した撮影画像までシミュレーションできる画期的な学習法となる可能性がある、しかし、撮影訓練には、撮影位置の確認のための触診や患者とのコミュニケーションが重要で、現状のVR技術は発展途上であり、十分な学習成果が得られない可能性が考えられることから、研究チームは、現在のVR教育システムを診療放射線技師の学習法として活用した際、技術習熟度に与える影響を評価した。

診療放射線技師養成学校の学生を対象に行った調査によると、「受像面の位置」「声かけ」「作業手順」「接遇」の4項目に関して、従来の教育に比べてVR教育システムを用いた教育の習熟度が有為に低下した。「受像面の位置」は患者の骨格位置を用いた受像面の位置合わせを必要とする技能。黒田教授らは仮想空間では触診による骨格の確認が行えないことが影響していると考えられるとしている。

また、研究チームは、VR教育での自己学習の有用性に関しても検討した。VR教育システムは、撮影装置や患者役など場所や時間の制約を必要としないことから、自己学習が可能となる。そこで、あらかじめ作成した評価表をもとに、VR教育システムを用いた場合の教員による客観的な習熟度評価と学習者自身による習熟度評価を実施。一部の項目で学習者が過大評価することがわかった。

黒田教授らは、今回の調査結果を受けて、「触感やコミュニケーションを必要とする教育では、VRを用いた場合に十分な学習が行われない可能性に注意するとともに、即時性な外部評価を取り入れた新たな教育システムの開発・評価と運用を進めることが重要であることが示唆された」としている。


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