2001年に策定されて2015年まで取り組まれていた、国連のミレニアム開発目標(MDGs)に続き、現在は持続可能な開発目標(SDGs)が進行中。MDGsの課題の一つに、〝安全な飲料水を持続的に利用できない人々の割合を半減する〟があった。この人口の割合は、1990年の24%から2015年には9%へと低減し、他の多くの課題が未達成で終わるなか、飲料水課題は達成された。
この達成などから得られる教訓を、現在進行中のSDGsの達成に役立てるため、東京大学生産技術研究所の沖 大幹教授らの研究チームは、百数十編に及ぶ膨大な文献を調査し、半世紀以上に及ぶ水問題解決に向けた国際的な目標の経緯を追跡した。その結果、MDGsが史上初めて達成された飲料水に関する世界目標であることが分かった。また、達成された理由として、「半減」という現実的な目標を掲げた点と、「改善された水源の利用」という適切な評価指標を用いた点、さらに、中国とインドの貢献が大きかった点を明らかにした。
また、この2ヵ国を除くと半減目標は達成されなかったものの、ほとんどの国で、経済と飲料水へのアクセスが同時に向上しており、SDGsでも、経済発展に伴う水インフラの整備が、飲料水へのアクセスの向上を促すことが期待される。
この研究成果は4月15日(英国時間)に、国際的学術誌「ネイチャー・サスティナビリタリー」(オンライン版)に掲載された。
研究チームは、国連報告書や学術論文など百数十編に及ぶ膨大な文献調査をし、MDGsに限らず、水問題解決に向けた国際的な目標の半世紀以上に及ぶ経緯を追跡。その結果、飲み水へのアクセスを増やす国際的な取り組みは数々行われてきたが、飲み水に関する目標が達成されたのは、MDGsが初めての事例だったことが分かった。
研究グループでは、達成された理由として次の2点をあげている。
(1)現実的な目標と適切な評価方法が設定された点
MDGsでは「安全な飲料水を持続的に利用できない人々の割合を半減する」という目標が掲げられた。〝半減〟という現実的な目標を掲げ、「改善された水源を利用しているかどうか」という指標が用いられたことが、達成できた大きな理由。厳密には〝安全な〟飲み水かどうか、持続可能かどうかに関しては疑問も残るが、改善された水源を指標としたことにより、達成に向けた努力が報われたと関係者が感じたと考えられる。
中印のインフラ整備も要因
(2)中国とインドの経済発展に伴う水インフラの整備
改善された水源にアクセス可能な人口の増大の内訳は、中国(特に都市部)とインド(特に地方部)がほぼ半数を占めていた。中国とインドを除外して計算すると、改善された水源にアクセスできない人口割合は、1990年の18.6%から2015年の11.4%と減ったものの、半減には至らず、MDGsの飲料水課題は達成されなかったことになる。
中国やインドで増大した理由は、経済発展に伴う水インフラ整備と考えられる。改善された水源にアクセス可能な人口割合は、一人当たりの実質国内総生産(GDP)の対数と統計的に有意な相関関係を持つことが今回明らかになった。
1990年から2015年にかけて、ほぼすべての国で「改善された水源にアクセス可能な人口割合」も、「一人あたりGDP」も増大した。