2022年1月27日 AIがウンカ類を自動カウント 目視では1時間以上の調査時間を3~4分に短縮

農研機構は、イネ害虫の発生調査で、調査板の画像からイネウンカ類を自動認識するAIを開発した。このAIでは、ウンカ類を90%以上の精度で認識・自動カウントし、目視では調査板1枚あたり1時間以上かかることもある調査時間を3~4分に短縮することができる。この成果は、害虫の的確な防除や被害発生の予測に役立つと期待されている。

イネウンカ類は、小さなセミのような形をした5mm以下の昆虫。イネの茎や葉から汁を吸い、大発生して収穫に大きな被害をおよぼしたり、イネのウイルス病を媒介したりする。古くから知られた害虫で、江戸時代の大飢饉の原因とも言われている。また、イネの害虫として、ベトナムや中国から飛来するトビイロウンカやセジロウンカ、国内にも分布するヒメトビウンカの3つが知られ、それぞれがイネの枯死、生育抑制、ウイルス病の媒介を引き起こす。

わが国では、コメの安定生産のために、これら3種のイネウンカ類を植物防疫法で「指定有害動物」として定め、その飛来後の発生状況を把握し、多発生による被害が予測される場合は生産者に向けて注意報・警報を発表している。そのため、国の発生予察事業では、水田のイネを対象として全国約3000地点について、都道府県の病害虫防除所が月2回以上の定期的な調査を行っている。

この調査は、予察灯やトラップなどの定点調査に加え、イネウンカ類の発生消長を把握するために、粘着剤を塗布した調査板をイネの株元に置き、葉や茎に付いている虫を叩き落し、調査員が目視で確認・計数するという方法で行われる。調査の際は3種のイネウンカ類について、さらに成虫の雌雄や幼虫の生育ステージなどを判別し、全18分類に判別する。調査者はこれらを判別しながら計数するが、熟練した専門家でなければイネウンカ類の判別精度が大きく下がるため、調査の現場ではイネウンカ類の判別技術の次世代への継承が大きな問題となっている。

 

イネウンカ類を精度よく自動認識する研究を推進

近年、AI(人工知能)技術の一つである「深層学習(ディープラーニング)」が発達し、これを用いた画像分類や物体検出では、AIが人間並みの精度を持つようになった。農研機構では、こうした最新のAI技術を活用し、農研機構独自の知見に立脚した、徹底的なアプリケーション指向の農業AI研究を推進するため、農業情報研究センターを設立した。また、ベトナムや中国から飛来するイネウンカ類に対して、最前線に立つ植物防疫研究部門と九州沖縄農業研究センターには、長年にわたる技術の蓄積があった。そこで、これらのAI研究と技術を融合することで、イネウンカ類を精度よく自動認識することを目的に研究を進めた。

90%以上の精度で認識 3~4分以内に処理を終了

今回の研究で開発されたAIは、調査板のイネウンカ類3種類を雌雄や幼虫・成虫などに全18分類して90%以上の精度で認識する。特に、激しい被害を引き起こすトビイロウンカは95%以上の精度で認識できる。人間が一般の画像を分類する際のエラー率は5.1%と言われているため、ほぼ人間と同等の精度を持つと考えられる。

このAIを用いて、調査板の画像中のイネウンカ類だけを自動的に認識し分類し、それぞれの分類ごとの数を出力する。さらに、画像中のイネウンカ類を名称の入ったタグ付きの枠で囲った画像ファイルも出力する。

イネウンカ類の調査板を専門家が目視で計数する場合、付着した虫が少ない場合で5~10分、多い場合は1時間以上の時間がかかる。しかし、GPU搭載パソコンを用いると、調査板の画像化に約2~3分、AIでの認識と分類、計数に1分費やしたとしても、付着した虫の多少にかかわらず、3~4分以内に処理が終わる。

こうしたAIを作るためには、質の高い学習データを用意する必要がある。そのため、研究では、試験ほ場(熊本県合志市)の水田で発生したイネウンカ類を、実際の調査と同様にイネから調査板に叩き落し、他の昆虫類やゴミなどと共に粘着させた。イネウンカ類は成虫でも5mm以下、若い幼虫でmm程度の大きさしかないため、この調査板をフラットベッドスキャナを使って高解像度でスキャンすることで、高精細画像化した。さらに、画像中の虫体の位置と18分類した種類をマーキングするアノテーション作業(学習データを作成する作業)を、害虫の研究者が画像だけでなく元の調査板も精査しながらイネウンカ類の判別を行った。目視で判別の難しい幼虫の場合、顕微鏡やPCR法を用いて詳細な観察を行い判別した。

2019年と2020年にわたり試験ほ場で収集した調査板を画像化し、約1万6000枚の画像中の虫のアノテーション作業を約300時間かけて行い、学習データを蓄積した。この学習データを農研機構AI研究用スーパーコンピューター「紫峰」の複数のGPUを利用して、深層学習を利用した物体検出AIプログラム(YOLO)で、のべ約120時間学習させてこのAIを開発した。


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