岐阜大学応用生物科学部の山根京子准教授らが行った調査によると、現在の高校生は、高齢者と比べてワサビの辛さが苦手で、ワサビよりもトウガラシを好んでいることが明らかになった。ワサビ嫌いは男子高校生よりも女子が顕著。理由は「ツンとくるから」。
山根准教授らは、現代の若者の辛味嗜好性を調べ、ワサビ離れの実態を把握することを目的として、全国の農業高校生と高齢者にアンケート調査を行った。全国の農業高校生約600人と老人介護施設約70人を対象にアンケートを実施し、「辛味に対する嗜好性」を調べた。
今回27項目にわたる質問に対する回答を分析し、
①高校生(39%)では高齢者(14%)に対して有意に「ワサビ嫌い」の割合が高く、女子高校生(48%)では男子高校生(22%)に対して有意にワサビ嫌いの割合が高い。この傾向は「辛い物」や「トウガラシ」の好き嫌いではみられない
②女子高校生のワサビが嫌いな理由は「ツンとくるから」が74%を占め、高齢者の36.4%に比べても高い
③トウガラシよりもワサビが好きな人の割合は高齢者よりも高校生で有意に低い
という結果が出た。
また、
④高校生では質問「まっさきに思い浮かぶ辛い食べ物は?」に対してトウガラ シ系食品(キムチ、タバスコ等)が88.4%を占め、ワサビ系(6.3%)を大きく上回っていた
⑤「生ワサビの経験」「魚好き」「家庭でのワサビ経験」と「ワサビ好き」に有意な関係性がみられた一方で、「回転寿司経験」「肉好き」とは関係性がみられなかった
⑥ワサビの嗜好性に地理的傾向は認められなかったものの、生ワサビの経験値 は静岡県、長野県で高い値が示され、両県ではワサビに対する関心度も高いことがわかった
などの調査結果がでた。
食品としての利用しやすいトウガラシ
今回の調査結果からだけでは、「若者のワサビ離れが起こっている」とは断定できなかったが、高校生が考える辛い食べ物の代表として「トウガラシ」の存在感が増している現状が浮かび上がってきた。
これは、両者の特性の違いにも起因していると考えられる。つまり、ワサビの辛さは「発揮性物質」という特徴があり、これが〝ツン〟のもとになるが、山根准教授らは、この特徴ゆえに食品として加工しにくく、食品としての利用しやすさの点でトウガラシに勝てない主要因になっていると分析している。
一方、「生ワサビ体験」「魚好き」や「家庭でのワサビ体験」と「ワサビ好き」が有意な関係性をもつことが明らかになったことは、今後の対策に役立つものと期待される。若者の間でもっと生ワサビを食べる機会を増やすことが一つの方策としている。
岐阜大では、『もっとワサビを食べようプロジェクト』と銘打ち、オープンキャンパスでこれまでに延べ1000人の高校生に生ワサビを体験してもらった。「ワサビがこんなにおいしいとは知らなかった」「これなら食べることができます」という好意的な意見が多くみられ、より多くの若い人たちに単に辛いだけではない、おいしいワサビを食べてもらうことで、ワサビの真の魅力に触れてもらえる機会を、全国レベルで広げる必要性を強調している。
回転寿司とワサビ好きは無関係
また、今回の調査では、意外にも「回転寿司の経験値」と「ワサビ好き」は無関係であることも明らかとなり、食嗜好の形成には家庭での継続経験がいかに重要であるか、あらためて示された。