2024年8月16日 高い温室効果ガス削減能力を持つ根粒菌の謎を解明 ヘルパー微生物と共に利用することで農業利用可能

農研機構は、東北大学と共同で、温室効果ガスである一酸化二窒素(N2O)の発生を抑制する能力が高い根粒菌Bradyrhizobium ottawaenseは、N2OをN2に変換する遺伝子の発現が高いことを明らかにした。その根粒菌を植物生育促進微生物(ヘルパー微生物)であるPseudomonas属菌と一緒にダイズに接種すると、根粒菌の窒素固定能とダイズの生産量の向上が見られた。これらの成果をもとに、高いN2O削減能力をもつ根粒菌とヘルパー微生物を併用することで、農地におけるN2Oの排出削減能力とダイズ生産能力の双方を高める技術開発が進むことが期待される。

 

農地から発生するN2Oを削減する技術の開発が急務

N2Oは、CO2の265倍の温室効果を持つ強力な温室効果ガス。地球全体の人為的N2O発生量の約82%は農業生産起源であるといわれており、このため、農地から発生するN2Oを削減する技術の開発が急務となっている。

農地において、N2Oは主に化学肥料の使用や作物の収穫残さなどから発生している。また、ダイズなどのマメ科作物の畑では、マメ科植物の根に根粒菌がつくる根粒が、収穫期に老化して崩壊することにより、N2Oが発生することが知られている。

ダイズ根粒菌の一種である「Bradyrhizobium diazoefficiens(代表株:USAD110株)」は、N2Oを窒素ガス(N2)に変換できるN2O還元酵素遺伝子(nosZ)を持っているが、その能力は弱く、農地から発生するN2Oを削減する効果は十分ではない。

また、日本の土壌に存在するダイズ根粒菌の多くはnosZ遺伝子を持っておらず、N2OをN2に変換する能力がない。N2Oを変換する能力を持つ根粒菌であっても、マメ科作物の生育を促進する効果を併せ持たなければ、作物の生産量を高める微生物資材としての活用は難しいと考えられる。

こうした状況から、N2O変換能力とマメ科作物の生育促進効果を同時に達成できる、根粒菌とダイズを組み合わせたダイズ栽培技術の開発が求められていた。

研究グループは、イネ科植物であるソルガムに住み着いている微生物から、nosZ遺伝子をもつ根粒菌を探索し、ダイズにも共生可能で、高いN2O変換能力を有するSG09を見出した。次に、SG09株の微生物資材としての有効性を検討するため、植物生育促進微生物の一種である「Pseudomonas Sp. OFT2株」との同時接種によるダイズの生育への影響を調べた。

 

研究成果のポイント

〔N2O還元酵素を持つ微生物の分離と性状解析〕

N2O変換根粒菌としてよく知られるUSDA110株は、Bradyrhizobium diazoefficiensというグループに属している。福島県のソルガムを栽培している土壌に住み着いている微生物を調べた結果、USDA110株とは異なるBradyrhizobium ottawaenseというグループに属する微生物の中からN2O変換能力を持つ株が複数見つかった。

これらの菌株のN2O変換能力(N2O還元活性)を調べた結果、SG09株がUSDA110株よりも5倍ほど高いN2O還元活性を持つことが分かった。

また、SG09株の高いN2O還元活性の原因を調査した結果、SG09株はN2Oが存在し、酸素濃度が低い条件において、USDA110株に比べnosZ遺伝子の発現が200倍ほど高く、この高いnosZ遺伝子発現がSG09株の高いN2O還元活性の理由であることが明らかになった。

〔従来の根粒菌株とSG09株をダイズに共生させた場合のN2O変換能力の比較〕

次に、3種類の根粒菌をそれぞれ接種したダイズを実験室内で栽培し、ダイズの根を含む土壌からのN2O発生量の比較を行った。

その結果、SG09株を接種した際の土壌からのN2O放出量は、nosZ遺伝子を持たず、N2O変換能力のないUSDA6株を接種した際の10分の1程度、nosZ遺伝子を持つがN2O変換能力の低いUSDA110株を接種した際の3分の1程度に減少しており、SG09株は非常に高いN2O変換能力を持つことが分かった。

〔農業資材としての有効性の検証〕

今回見つけたSG09株を農業資材として利用する場合、マメ科作物の生育を促進する効果を併せ持つ必要がある。そこで、SG09株と植物の生育を促進する微生物Pseudomonas属菌OFT2株(ヘルパー微生物)を一緒にダイズに接種した結果、SG09株単独接種と比較して、窒素固定能力が約2倍向上し、ダイズの地上部乾燥重量も増加した。

 

窒素肥料のさらなる削減と農地から発生するN2O削減の両方が可能に

今回解析されたN2Oの変換能力が高い根粒菌B.ottawaense SG09株は、ダイズに根粒を形成し、窒素固定も活発に行う。その窒素固定能力は、植物の生育を促進する微生物(ヘルパー微生物)OFT2株との同時接種でさらに向上することが明らかになった。

根粒共生による窒素固定は、窒素肥料の代わりとなるため、ダイズと根粒菌SG09株、ヘルパー微生物OFT2株を組み合わせて栽培することで、窒素肥料のさらなる削減と農地から発生するN2O削減の両方が可能になると期待される。


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