2024年2月14日 餌探しを「すぐにあきらめない」天敵昆虫を育成 「みどりの食料システム戦略」推進への貢献に期待

農研機構は、ナスの重要害虫アザミウマ類の天敵として利用されているタイリクヒメハナカメムシを対象に、長い時間にわたって害虫を粘り強く探索して捕食する「すぐにあきらめない」性質を有する系統を選抜・育成することで、防除効果を高められることを明らかにした。

この成果は今後、これまで天敵利用が難しかった作物や栽培環境など、多くの場面で有効な天敵の選抜・育成に応用され、「みどりの食料システム戦略」の推進に貢献することが期待される。

 

化学農薬のみに依存しない画期的な害虫防除技術への期待

世界の農作物の総生産のうち、約16%が害虫などの有害動物によって損失するとされている。

現在の害虫防除は化学農薬が主体だが、新剤開発にはコストと時間がかかる。また、薬剤の多用により抵抗性が発達し、化学農薬による防除が困難な害虫もいる。

この状況を打開するため、化学農薬のみに依存しない画期的な害虫防除技術の開発が試みられている。その1つが、天敵を用いた生物的防除法。天敵を利用した防除技術として、現在、複数種の害虫をたくさん食べ、害虫密度が低くても粘り強く探索し、低温条件など天敵の活動に適さない環境下でも働く天敵の開発が進められている。

 

害虫を長い時間粘り強く探索する性質

農研機構は、今回の研究で、重要害虫アザミウマ類をはじめ様々な微小害虫を捕食する天敵であるタイリクヒメハナカメムシを対象に、害虫を長い時間にわたって粘り強く探索する性質を有する系統を選抜・育成することで、餌となる害虫の発生が低密度の環境下でもよく働き、害虫の防除効果を高められることを明らかにした。

「すぐにあきらめない」系統は、歩行活動量を指標に「集中型」の餌探索を長く行う個体を選抜(遺伝子組み換えとは異なる方法)することによって育成されたもの。改良していない系統に比べて作物上の害虫密度が低い状況でも長く作物上に定着し、高い害虫防除効果を発揮する。

 

生産性向上と環境保全の両立の実現へ

現在、「すぐにあきらめない」系統に関する分析が行われており、「すぐにあきらめない」性質をもたらす関連遺伝子の解明が進められている。関連遺伝子が特定されることで、マーカー育種等のより高度な育種技術を適用できるようになり、定着性をさらに向上させ、防除効果が持続する系統を育成することが可能となる。

今後、定着性の向上とともに、難防除害虫をたくさん食べることや低温条件での活動性など他の機能も強化した天敵系統が育成され、これまで天敵の利用が難しかった作物や栽培環境など多くの場面で活用されることにより、化学農薬のみに依存しない害虫被害ゼロ農業を実現し、「みどりの食料システム戦略」が掲げる化学農薬使用量(リスク換算)の低減や有機農業の取組面積の拡大、農研機構が目標として掲げる「生産性向上と環境保全の両立」にも貢献することが期待される。


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