顔の「良し悪し」は、その人が着ている衣服にまで影響する―。容姿の良い人が着ている服は、そうでない人と比べてより魅力的に映ることが、新潟大学准教授らの研究で明らかとなった。この事実を発見したのは、新潟大学人文学部の新美亮輔准教授(認知心理学)と同学部心理・人間学主専攻プログラム卒業生の山田真也氏。魅力のある顔が服の印象に与える影響は、男性よりも女性のほうが大きく、また、外見的魅力が人の判断に影響する「魅力ステレオタイプ」は服にまで及んでいることも浮き彫りとなった。この調査研究は山田氏の卒業研究で行われたもので、日本心理学会の機関誌に掲載された。
「ステレオタイプ」服に波及
人の印象は、行動だけでなく、顔や服装などの視覚的情報にも影響される。特に顔の魅力の対人知覚への影響については、多くの心理学的研究が存在する。しかしここ数年、認知心理学で、対人知覚での顔以外の情報の重要性が注目されており、顔の知覚と顔以外の身体部位の知覚がどのような関係にあるのかが問題となっていた。
服装が着用者の印象に影響を与えることは知られている。しかし、着用者の顔の印象が服の印象に影響を与えるかは十分に明らかになっていないのが現状。魅力的な顔の人が着ているのと同じ服をでも魅力的に思えるのかということは、実証的に確かめられていなかった。魅力ステレオタイプという心理学的現象があり、魅力的な顔の人物は能力やパーソナリティまで良いと評価されてしまいやすいこともわかっている。このような現象が服にまで波及する可能性が考えられた。
また、服の印象に関する心理学的研究は、女性の服を検討したものがほとんどで、男性の服の印象については研究が少ない。しかし、顔の魅力の心理学的研究では、顔の性別とそれを見る人の性別の組み合わせによって顔の魅力の影響が異なることがあるとわかっている。そこで新美准教授らは、仮に顔の魅力が服の魅力評価に影響するならば、影響の出方は顔の性別と評価する人によって変わるのかということについて検証した。
「認知の枠組み」が影響か
新美准教授らは、事前調査によって、男女大学生の顔写真の中から高魅力顔と低魅力顔の写真を複数選出。これらの顔写真を、無地、ボーダー柄などさまざまな色・柄のTシャツの画面に合成し、人物がTシャツを着ている画像を作成した。次に合成写真を男女学生に1枚ずつみせて、顔ではなく服の魅力を7段階で評価してもらった。
調査の結果、高魅力顔の写真に対するTシャツの魅力評価の平均値は、低魅力顔の写真に対する平均値よりも高くなった。つまり、Tシャツ自体は同じでも、高魅力顔が合成されていると、低魅力顔が合成されているときよりも、Tシャツがより魅力的に評価されたことになる。
ただし、高魅力顔と低魅力顔の差は、顔が男性のときには非常に小さい差だった。一方、顔が女性のときには大きな差はみられた。この結果は評価する人が男性でも女性でも同様。
男性よりも女性の顔の方が影響が大きいという事実に関する正確な理由は明らかになっていないが、評価者の性別によらず同じ結果だったことから、男性よりも女性の顔の魅力の方が重視される社会規範や、それに基づいた認知の枠組み(ジェンダー・スキーマ)が影響している可能が考えられるとしている。
顔の影響「思った以上に」
人間が行う評価や判断が本来は無関係な情報に引きずられてしまう現象は多く知られているが、この研究結果はその新しい例と言える。さらに、顔魅力が評価・判断に与えてしまう影響が〝異性の人物について評価する〟といった典型的なケースに限られていないことも示した。今回の研究で用いた顔写真は、モデルなどの魅力が特に高い写真ではなく、一般的な大学生のもの。新美准教授らは「私たちが思っている以上に多くの評価・判断が顔魅力に引きずられている可能性がある」と指摘。重要な評価・判断では、このような可能性に留意する必要があるとしている。