7月7日に(株)アグリセクトからタバコカスミカメ剤「バコトップ」が販売された。これは、天敵昆虫「タバコカスミカメ」を利用した生物農薬で、キュウリやトマトなどの施設園芸で問題となる難防除害虫のアザミウマ類やコナジラミ類の防除に有効。農研機構や(株)アグリ総研、5県の公設試験場の共同で製剤化され、5月26日に農薬登録されている。
化学合成農薬を削減し、害虫防除を行うには、天敵昆虫類の利用を中心に防除体系を組み立てていく必要がある。コナジラミ類には、数種の寄生蜂(ツヤコバチ類)が、アザミウマ類に対しては小型捕食性天敵(カブリダニ類、ヒメハナカメムシ類など)がすでに生物農薬として市販されているが、これらの害虫によるウイルス病の媒介・蔓延を抑制するため、捕食能力が高く、定着性の良い新たな天敵が求められていた。
「タバコカスミカメ」は、捕食能力や分散能力が高く、コナジラミ類、アザミウマ類の有力な天敵として、すでに海外では生物農薬として市販されている。そこで、農研機構は、2012年度よりキュウリにおけるアザミウマ類、トマトにおけるコナジラミ類を対象に、本種の有効性を(株)アグリ総研、高知県、福岡県、岡山県、静岡県、千葉県とともに検証し、製剤化した。本種を用いた防除技術についても、このグループに加え、近畿大学、宮崎大学、宮城県、栃木県、神奈川県、三重県、広島県、熊本県とともに開発してきた。
天敵製剤タバコカスミカメの利用法と特徴
「タバコカスミカメ」は、これまでに市販された天敵よりも大型で、キュウリやトマトなどで問題となっている難防除害虫のアザミウマ類やコナジラミ類の防除に有効。
また、一部の植物や代替餌資材で発育・増殖できるため、餌となる害虫が少ない時でも、バーベナ、クレオメなどの天敵温存植物や天敵用餌ひもにより、施設内で安定して定着させることができ、害虫発生初期から効果を期待できる。
また、研究グループでは、タバコカスミカメをより効果的に使えるようにするため、タバコカスミカメを誘引する紫色LED装置、害虫コナジラミの忌避剤アセチル化グリセリド、エッジ色彩粘着板、新規赤色防虫ネットなどを開発している。さらに、これらを組み合わせた防除体系を地域別にマニュアル化し、農研機構のホームページで公開している。この防除体系を利用することで、IPM(総合的病害虫管理)を実行することができる。
〔使用にあたっての注意点〕
タバコカスミカメ剤の使用はキュウリ、トマトの栽培施設に限られている。使用に際しては、施設開口部に防虫ネットを被覆すること、使用後は施設を締め切り、内部の植物の枯死やタバコカスミカメの死亡を確認するなど、野外へ逃亡しないように処置することが必要となる。
また、タバコカスミカメはコナジラミ類やアザミウマ類を捕食する天敵生物だが、植物を吸汁する生物でもあり、害虫が低密度の時に高密度放飼を行うと植物体に傷などが発生するおそれがある。特に、初めて使用する場合は、病害虫防除所などの関係機関の指導を受けることが望ましい。
環境保全型農業へのシフトに期待
農薬を全く使用しない場合のトマトの減収率は平均で36%という数字があり、これをトマトの市場価格に換算すると1500億円に達する。トマトなどウイルス病が問題となる作物では、従来の天敵による防除効果が不十分であったため、天敵利用が進まなかったが、タバコカスミカメ剤の上市により、こうした作物でも天敵利用が進むと見込まれている。農研機構では、併用できるIPM技術もマニュアル化し、環境保全型農業へのシフトが期待されるとしている。