国立研究開発法人産業技術総合研究所は、中空糸など中空構造をもつ繊維の内側面に機能性微粒子や結晶を選択的に合成する技術を開発した。産総研の化学プロセス研究部門マイクロ化学グループが今年1月末に東京ビッグサイトで開催された国際ナノテクノロジー総合展・技術会議で発表したもので、化学繊維だけでなく、天然のコットンなどにも適用でき、抗菌・防臭衣類などへの利用が見込まれる。
研究グループによると、繊維の中空部分に原料溶液を導入したうえで、マイクロ波選択加熱による化学反応で繊維の中空部分に機能性微粒子や結晶を合成し、機能を付与する。例えば、天然繊維である綿(コットン)の中空部分に銀ナノ粒子を合成して抗菌性をもつ繊維が製造できる。
この技術により製造した綿は、機能性の粒子が繊維の中空部分のみにあるため、風合いなどの特徴を維持しつつ、摩擦などによる機能劣化の抑制も期待されるという。
繊維の高機能化の求めに応じマイクロ波加熱の制御法を応用
スポーツウェアや医療施設の内装などに代表されるように、衣類や居住の快適性向上のために繊維の高機能化を求める要望が多く、対応方法の一つとして繊維への機能性化学物質の導入が試みられてきた。これまで、繊維に機能性化学物質を導入する技術として、繊維原料の樹脂製造工程で混機能性材料を混ぜ合わせたり練りこんだりする技術や、製造後の繊維に浸み込ませて機能性材料を結合・コーティングする技術が知られている。
しかし、混錬の場合、機能を付与する工程が製造時に限られるという課題があった。含浸などの場合はさまざまな繊維に対応できるが、主に繊維表面への機能の付与のため、繊維のもつ風合いなどの変化や、摩擦・摩耗によって機能が劣化しやすいといった問題が指摘されている。
産総研では、化学反応の高度な制御により、高付加価値の素材を低環境負荷で製造する化学プロセスの実現を目指した研究開発を行っている。今回用いたマイクロ波加熱を利用する反応制御技術の開発では、すでに10年前にナノ粒子合成装置や電子部品の実装装置を発表している。
研究グループは、機能性繊維として広く利用されている中空構造をもつ繊維に着目し、マイクロ波加熱による反応制御で、中空部分へ機能性化学物質を導入する技術の開発に取り組んだ。
今回開発した技術は、中空構造をもつ繊維であれば天然、合成を問わず広く適用できる。また、導入できる機能性微粒子などはゼオライトなどの無機結晶から、薬効のある有機結晶や、導電性粒子など多岐にわたるため、この技術で作られた機能性繊維や織布は広範な分野での利用が期待される。例えば、医療分野では抗菌・防火カビ性のある病衣やシーツ、生活分野では、防臭性や調湿性のある衣類、住宅分野では難燃性カーテン、農業分野では防虫性ネットなどが想定される。
産総研では、今後は具体的な機能の発現に必要な条件を明らかにし、耐摩耗性などの性能評価を進める。また、大量合成技術の確立など、技術の実用化に必要な要素技術の開発を進める。