男女とも過度な長時間労働に従事する人々は、結婚・出産を経験する割合が低い―。東京大学社会科学研究所の石田 浩教授らの研究グループが行った「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」で、こんな事実が明らかとなった。また、子どもを持つ世帯の人々のうち、裕福な世帯ほど子ども保険への加入率が高かった。
石田教授らの研究グループは、2007年から「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」を毎年実施している。この調査は、急激な少子化・高齢化や経済変動が人々の生活に与える影響を解明するため、わが国に生活する若年・壮年層の働き方、結婚・出産といった家族形成、ライフスタイルや意識・態度などがどのように変化しているのかを探索することを目的とするもの。同一の人々に繰り返し尋ね続ける「パネル調査」という手法を用いている点が特色で、同じ個人を追跡することにより、個人の行動や意識の変化を跡付けることができる。
今回は、2016年調査(4月~6月実施:回答者3439名)に基づき、(1)離家経験、(2)長時間労働と家族形成、(3)子ども保険への加入、(4)人々の考える「危機」―という四つのトピックについて分析した。
調査のうち、生まれ育ってきた親の世帯からはじめて独立して生活を営むことを指す「離家」に関しては、29歳から49歳のうち、男性では84%、女性では89%の回答者が、親と離れて別の世帯を構えたことがあった。男性では、入学・進学といった学校と関連した理由、就職・転職といった就業に関わる理由の二つがそれぞれ39%、35%と高かった。女性で最も多い理由は結婚で、離家経験者のうち51%が結婚を理由に親元を離れていた。
また研究グループは、離家時期と出身家庭の豊かさに注目した。男性では、15歳時点での家庭の暮らし向きが「豊か」である場合には、「貧しい」あるいは「普通」の場合に比べて、離家時期が遅かった。このことは、18歳時で就職のために離家する確率が「豊か」な家庭出身者の場合には、相対的に低いことに起因していた。
労働時間、男性は3.7時間短縮
長時間労働の問題は、現代日本社会のホットイシューの一つ。長時間労働がもたらす問題はさまざまあるが、しばしば語られるのが仕事と家庭生活の両立を妨げること。研究グループでは、長時間労働が結婚や出産という家族形成に負の影響を及ぼしているかどうかを分析した。
30代の人々について、2007年調査と2016年調査を比較すると、労働時間の中央値は女性ではほとんど変わっておらず、男性では3.7時間短縮した。こうした結果は、労働時間が短い非典型雇用が増えたことだけによるものではなく、典型雇用者のみに限定した場合には、労働時間の中央値は女性では1.2時間の減少、男性では3.9時間の減少がみられた。
子ども保険(学資保険)への加入と子どもに対する意識については、2015年の子ども保険の新規契約件数は84万件となっており、個人保険市場の中で約5%を占めている。この結果について研究グループでは、子ども保険は貯蓄性という観点から、親の死亡・病気などが起きた際に、将来的に教育費が支払えなくなるリスクに備える手段の一つになっていると考えられると分析。その上で、研究グループでは、子ども保険には具体的にどのような人々が加入しているのかを分析した。
29歳~49歳の人々のうち、37.1%が子ども保険に加入していた。子どもがいる人々に限定した場合には、加入率は57.9%であった。世帯収入別では、600万円以上~850万円未満の人々の加入率は61.8%と最も高かった。また、子どもの性別構成で見ると、男子のみがいる世帯では加入率が59.1%である一方で、女子のみがいる世帯では54.6%であった。
さらに、子ども保険への加入行動と子どもへの意識の関係に注目した。加入しているかどうかによって、「子どもにはできるだけ高い教育を受けさせたい」「子どもには、学校教育のほかに家庭教師をつけたり、塾に通わせたい」という意識には差が見られなかった。しかし、「子どもにはできるだけ多くの財産を残してやりたい」という希望度合いが、子ども保険に加入している人々ではより大きくみられた。
最大の「危機」は自然災害・天災
2016年調査では、「あなたが考える『危機』とは何ですか」、さらに「その『危機』についてどのようにお考えですか。またどのような備えをしていますか」という自由回答形式の質問を設けた。
回答者3400名 のうち69.7%(2370名)から「危機とは何か」に対する回答が寄せられた。言及が多かったものについて複数回答を許容して計算すると、「(内容を特定しない)自然災害・天災」(39.4%)が最も多く、「地震」(27.1%)、「自分の家計・生活水準の悪化」(14.9%)が続いた。
個人属性別に見た場合でも、自然災害・天災を「危機」と考える傾向がいずれの年齢・性別でもきわだって高かった。一方で、国際関係や、介護・老後問題を「危機」と捉える人々は、年齢が上がるにつれて多くなる傾向がみられた。