2017年7月10日 酢酸が植物の乾燥耐性強化する仕組み発見 遺伝子組換え植物に頼らない干ばつ被害軽減に期待

科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業で、理化学研究所環境資源科学研究センター植物ゲノム発現研究チームの金 鍾明研究員、関 原明チームリーダーらは、お酢の主成分である酢酸を与えることで植物が乾燥に強くなるメカニズムを発見した。

従来、植物を乾燥や干ばつに強くするには、遺伝子組換え植物の利用が主流だったが、遺伝子組換え技術に頼らずに植物の乾燥耐性を強化する技術の開発が望まれていた。そこで、研究グループは乾燥ストレス応答時の植物体内の代謝変化を調べ、乾燥に応答して酢酸が積極的に作り出されていることを発見した。

また、この酢酸合成開始には、植物のエピジェネティック因子が活性化のスイッチとして働いていることも明らかにした。さらに、酢酸を与えることで、様々な植物で乾燥耐性が強化されることや、それが傷害応答に関わる植物ホルモンであるジャスモン酸の合成とシグナル伝達を介していることを明らかにした。

こうした研究成果については、遺伝子組換え植物に頼らず、植物に酢酸を与えるだけで、急激な乾燥や干ばつに対処できる簡便・安価な農業的手法として役立つことが期待されている。

 

〔求められる簡便で安価な植物の乾燥耐性強化方法の開発〕

地球温暖化などの環境変動による急激な乾燥や干ばつの発生は、トウモロコシやコムギをはじめとする作物生産量の低下や砂漠化の拡大など、世界規模で大きな問題となっている。

これまで、植物の乾燥耐性を強化するための方法としては、遺伝子組換え技術が用いられてきた。しかし、これらの作出には時間や費用が掛かるため、より簡便で安価に利用できる植物への乾燥耐性強化技術の開発が求められている。

 

〔シロイヌナズナを用いた調査〕

研究グループは、まず、モデル植物であるシロイヌナズナを用いて、乾燥処理による植物体内の代謝変化を調査した。その結果、乾燥時には、生命活動に必要なエネルギーを得るための中心的な代謝経路である解糖系が強く抑制されるだけでなく、酢酸の生合成量が特異的に増加することを発見した。酢酸は解糖系の中間代謝物であるピルビン酸から生合成されることから、乾燥処理により、植物体内でダイナミックな中心代謝経路の変化が起きていることが分かった。また、この代謝変化にはエピジェネティック制御因子であるヒストン脱アセチル化酵素HDA6タンパク質がスイッチとして働き、酢酸合成遺伝子発現のオン・オフを直接制御していることも明らかになった。さらに、シロイヌナズナに外部から酢酸を与えることで乾燥耐性が強化されることを発見した。

次に、酢酸の作用メカニズムを明らかにするため、シロイヌナズナに酢酸を与えた時に生じる変化が調べられた。その結果、傷害応答に関わる植物ホルモンであるジャスモン酸の生合成が誘導され、吸収された酢酸がDNAと相互作用するヒストンタンパク質にアセチル化修飾として取り込まれ、ジャスモン酸の下流ネットワーク遺伝子群が活性化されていることが明らかになった。

さらに、シロイヌナズナ以外のイネ、トウモロコシ、コムギ、ナタネなどの有用作物についても、酢酸を与えることにより乾燥耐性が強化されることが確認された。

 

〔発見された新たなメカニズムに集まる大きな期待〕

こうした研究結果は、①植物の酢酸‐ジャスモン酸経路を介した新規乾燥耐性機構の発見 ②植物の乾燥応答をエピジェネティックな因子が直接制御していること ③ジャスモン酸を介した乾燥耐性システムが幅広い植物種に進化的に保存されていること ― を示す初めての成果である。

また、今回発見されたジャスモン酸経路を介した植物の乾燥耐性機構は、これまでに全く知られていなかった新規のメカニズムであり、研究を続けることでさらに多くの重要な遺伝子・物質の発見や、植物が環境刺激を記憶するメカニズムの解明につながると期待されている。また、今回の研究成果は、遺伝子組換え植物に頼らず、植物に酢酸を与えるだけで急激な乾燥や干ばつに対処できる簡便・安価な農業的手法として役立つことが期待される。


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