2023年2月7日 農研機構、地下ダムの新機能を開発 潮の干満利用した監視システム 沿岸域の地下水資源の塩水化防ぐ

農研機構は、沿岸域の地下水資源を塩水化から守るための「地下ダム」の機能を、潮の満ち引きの影響を受ける地下水位観測データを用いて監視できる手法を開発した。この成果は、地下ダムの止水機能の連続的な監視を可能にし、貴重な農業用水源である沿岸域の地下水を塩水化から守るのに役立つと期待されている。

 

南西諸島の貴重な農業用水源として利用されている「地下ダム」

沖縄・奄美などの南西諸島には、雨水がすぐに浸透する地層が広く分布していて河川ができず、水資源を地下水に頼る地域がある。そのうち、地質構造などの条件が適した地域では、地下水がある地層の中にその流れを遮るコンクリート製などの壁(地下止水壁)を造って地下水資源を貯める「地下ダム」が建設されている。南西諸島には、貯水量数十万トンから数百万トンの大規模な地下ダムが10基あり、貴重な農業用水源として利用されている。

沿岸域の海に接する地層中に造られた地下ダムの止水壁は、海側の地下から海水が内陸に浸入するのを防ぐことで淡水である地下水資源を塩水化から守っている。大地震などで地下ダムの止水壁に亀裂や穴ができるとその機能が損なわれ、海水が止水壁の内陸側に浸入して地下水資源が塩水化する可能性がある。

地下ダムの止水壁は、地下に埋設してあるため直接見たり触れたりして状態を知ることができない。従来、こうした地下ダムの止水機能の点検方法として、地下水の塩分濃度の目安となる電気伝導率を測定する機器を携行し、現場に設けられた地下水調査用の直径数cmの縦穴(地下水観測孔)に長いケーブル付きセンサーを挿入して深さごとに地下水の電気伝導率を測定する手法が行われている。この測定を多数地点で行うことでその時点の地下水の塩水化の有無や範囲が分かるが、作業者が現地に赴いて行うこの調査は労力的に年数回が限度で、連続的な監視に利用することは困難だった。

 

潮の満ち引きを利用して地層の水の通りやすさを推定する技術を応用

農研機構では、これまで潮の満ち引きを利用して地層の水の通りやすさを推定する技術を開発していた。この技術は、沿岸域の地下水資源の利用可能量の検討に役立つものであり、地下水を含む地層が水を通しやすい性質であるほど、地下水位の周期的振動が地層中を伝わるときに減衰しにくいことを利用していた。その技術を地下ダムの止水壁に応用する着想が、新たな手法開発の契機となった。

止水壁を挟んで地下水位の周期的振動が伝わるときに大きく減衰することは、止水壁が水を通しにくい性質であることの表れであり、「地下水の流れを遮る」という機能が保たれていることの証拠になる。地下の壁を挟んで設置した観測機器で得られたデータを用いて水の流れに関わる壁の性質を推定することは、農研機構が特許を取得している。

 

地下水を塩水化から守る地下ダムの機能の連続的な監視を可能に

開発した技術は、地下止水壁を挟む海側と内陸側の地下水観測孔に地下水位を自動で連続観測し記録する機器(自記水位計)を設置して得られるデータを利用する。両地点の水位観測データについて、フーリエ解析と呼ばれる方法を応用して、潮の満ち引きの影響による特定周期の振動の大きさを分析する。

止水機能が正常に保たれていることが分かっている地下ダム止水壁の結果と比較して、内陸側の地下水位の潮の満ち引きによる振動の幅が明らかに大きいなどの結果が得られれば、止水機能が損なわれている可能性があると判断する。その場合は、さらに詳細な調査や補修対策の必要性を検討することが推奨される。

この手法は、これまで難しかった、地下水を塩水化から守る地下ダムの機能の連続的な監視を可能にするもの。大地震など不測の事態が起きた後の地下ダムの機能の点検にも使える。

 

技術資料の公表、関係者への説明会

今回開発された手法は、①塩水浸入阻止型 ②貯留型 ― のうち、①の地下ダムの機能監視に用いられるものだが、②の地下ダムであっても、止水壁の海側の地層が海に接し、地下水位が潮の満ち引きの影響で振動していればこの手法が適用できる可能性がある。

また、既に水源として利用されている地下ダムだけでなく、建設中の地下ダムの機能の確認に用いることも考えられる。地下ダム建設開始前から自記水位計による観測を始めれば、建設中の地下ダムの止水機能が発現していく状況をリアルタイムにモニタリングできる可能性がある。

農研機構では、今後、開発手法を説明した技術資料の公表、地下ダムの管理に関わる関係者への説明会の開催を計画している。

 

地下水の塩水化を防ぐ地下ダムにおける潮の満ち引きを利用した機能監視の概念図(プレスリリースより)


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