日本医療機能評価機構はこのたび、四半期ごとに医療事故やヒヤリ・ハットの事例をまとめている報告書を公表した。この中で、対象期間の今年4月から6月の間に、車椅子からベッドに移乗する過程において、患者のひざ下にフットレスト(足置き)が接触し、患者がケガを負った事故を紹介。改めて過去のケースを振り返るとともに、移乗の介助には複数名であたるべきといった改善策を提示している。
同機構によると、2012年から今年の6月までに、車いすのフットレストで患者がケガを負った事例は35件。患者の年齢は全て50歳以上で、このうち25件が70歳以上だった。患者の状態別(複数回答)では、歩行障害が22件、下肢障害が16件、認知症・健忘が5件などとなっている。
事故の状況では、患者を車いすからベッドや検査台に移乗した、またはその逆のケースが26件。移乗の際に車いすを移動させて患者と接触したケースが9件あった。
事故発生時に関わっていた医療関係者の人数をみてみると、1人で介助していたものが16件と最も多かった。その理由については、
・今まで1名で介助していたため大丈夫だと思ったが、患者の体重に負けて患者の下肢を引きずるような形になった
・リハビリ中、軽介助で移乗しているのを見たため、1名で介助ができると判断。立ち上がり時のみ介助しようと思ったが、患者が膝折れし、支えきれなかった
・患者の意識レベルの変化とともに動作レベルにも変化があったが、普段と同じように1名で介助した。
・患者の足の動きが悪いため、反動をつけて1名で移乗した
‐といったものがみられた。
16件中3件については、本来2人以上であたらなければいけないにも関わらず、1人で対応したケースだった。その要因では、
・看護師による全介助が必要であったが、付き添い家族がいたため、看護師1名でもできると思った。車椅子のフットレスト部分が下肢に強く当たった状態で移乗した。
・2名で介助するべきところ、1名が他スタッフに呼ばれて退室した。残ったスタッフが1名でもできると思い介助したが、立ち上がりが不十分で膝折れした。
・1名での移乗の介助は困難であったが、情報が共有されておらず、患者が膝折れした際に支えきれなかった。
・可動域制限があり移乗は全介助であったこと、また、長時間の車椅子乗車後は下肢の動きが一層低下することから、介助者1名での移乗は難しかったが、1名で実施した。
‐などがあがっている。
同機構は改善策について、複数名による介助を指示。併せて、車いすのフットレストや手すりが取り外し可能な場合は外して移乗することや、患者の状態に応じて介助の方法を選択すること、複数名で介助をするときは、事前にお互いの役割を確認すること‐が重要だと注意を呼びかけた。そのうえで、今回の報告を活かして、事故の発生防止につなげてほしいとしている。