ゲーム感覚の二重課題運動は超高齢者の身体機能や認知機能を高める―。筑波大学研究員が行った検証で、こうした研究成果が明らかとなった。運動課題と認知課題の二つを同時に行うトレーニング方法である「二重課題運動」。じゃんけんや簡単な計算などゲーム感覚で取り組むことができ、多くの老人ホームといった高齢者施設で行われている。こうした活動の有効性をあらためて確認する結果となった。
25年には高齢者の5人に一人が認知症
この研究を行ったのは、筑波大テーラーメイドQOLプログラム開発研究センターの尹之恩(ユン シウン)研究員。(株)ルネサンス健康経営ソリューション部の上田哲也氏との共同で研究を進めた。
わが国は超高齢化社会となり、認知症有病率は先進国の中でも上位で、高齢労働省の推定によると、2025年には高齢者の5人に一人が認知症患者になると言われている。このため、健常な認知機能を長く保持して〝健康寿命〟を延伸することが強く求められている。
運動を行うことが、身体機能や認知機能の維持・向上につながる可能性が報告されており、ここ数年、動物実験や実験室レベルでのヒト研究、疾学調査研究によって、運動や身体活動によって運動や身体活動による機能の低下抑制効果を示唆するデータが数多く示されている。
一方で、それらのほとんどは、身体機能向上に特化した運動であり、認知機能に対する効果はあまり検証されていなかった。
研究チームはこれまでに運動課題と認知課題の二つの課題を同時に行う二重課題運動に注目。高齢者の身体機能や認知機能向上の新たな方策として、可能性を探索し、2020年に身体機能や認知機能の共役関係によるシナジー効果の可能性を報告している。
そこで今回、65歳から84歳までの高齢者よりも身体機能や認知機能の向上が困難と言われている85歳以上の超高齢者を対象に調査を実施。低強度の運動で構成され、超高齢者でも無理なく楽しめるゲーム感覚の「シナプソロジー」と呼ばれる運動プログラムを用いて、高度の二重課題運動の有効性の定量的評価を試みた。
車いす使用者も多数参加
研究では、老人ホームに入居する平均年齢89.9歳の超高齢者24人を対象に24週間(1回60分、週2回)にわたり実施。二重課題運動を行った12人と、行っていない12人とに無作為に分けて、二つのグループ間に身体機能と認知機能の変化を比較した。
具体的には、二重課題運動として、わが国伝統的遊びである「じゃんけん」や「ボール回し」の身体動作と、数字の計算を使う脳活性課題を組み合わせて、同時に行った。週を重ねるにつれて二重課題の難易度を増すようにプログラムを設計した。
その結果、二重運動を行ったグループは身体機能と認知機能の両方が著しく維持・改善されたことが明らかとなった。一方、運動を行わなかったグループは、身体・認知いずれの機能で負の結果を示したという。
今回実施した二重課題運動プログラムには、車いすや杖を使用する超高齢者も参加したが、ゲーム感覚かつ集団で楽しめるよう構成されているため、高い参加率を示した。社会的交流の機会が減っている超高齢者のメンタルヘルスに友好な影響をもたらすことが期待される。
尹研究員らは、「本研究で用いたような楽しく二重課題運動を継続的に実施すれば、身体や認知機能が維持・改善され、認知症を発症せずに健康寿命を伸ばすことができる」と指摘。その上で、今後、身体と認知機能を同時に活性化させるため、より高度なプログラムの開発に取り組むこととしている。