農林水産省は平成28年度に、しょうゆの製造事業者(過去に自社で製造したアミノ酸液を原料として使用)を対象に、混合醸造方式または混合方式しょうゆ、原料アミノ酸液中の3‐モノクロロプロパン‐1、2‐ジオール(3‐MCPD)濃度の実態を調査した。その結果、混合醸造方式・混合方式しょうゆ中の3‐MCPD濃度の平均値と中央値は、平成23年度の調査結果と比べて2分の1に低下した。また、最大値については、平成23年度の結果と比べ2分の1以下に低下していることが判明し、これまで製造事業者が実施している低減措置が有効であることが確認された。引き続き、製造事業者と連携し、混合醸造方式・混合方式しょうゆ中のクロロプロパノール類の低減措置の普及とその有効性の検証を行うとしている。
低減措置の有効性の検証を継続し実施
しょうゆには、もろみ(蒸煮した大豆等にこうじ菌を培養したもの、食塩水等を添加したもの)を発酵、熟成させて製造する「本醸造方式」、もろみにアミノ酸液等を添加して発酵、熟成させた「混合醸造方式」、本醸造方式または混合醸造方式しょうゆにアミノ酸液等を添加した「混合方式」がある。アミノ酸液の原料である植物性たんぱく質を塩酸で加水分解すると、クロロプロパノール類が生成されるが、代表的なクロロプロパノール類の一つである「3‐モノクロロプロパン‐1、2‐ジオール(3‐MCPD)」を多量に摂り続けると、腎臓に悪影響が出る可能性がある。
農林水産省では、しょうゆの安全性を向上させる措置の必要性やその方法等を検討するため、平成16年度から平成18年度にしょうゆとアミノ酸液中のクロロプロパノール類の実態について調査を実施した。
その結果、わが国のしょうゆ生産量の8割以上を占める本醸造方式しょうゆは3‐MCPDを定量限界以上に含まないこと、混合醸造方式・混合方式しょうゆの9割以上は3‐MCPD濃度が低いことが分かった。また、混合醸造方式・混合方式しょうゆの製造事業者が自ら製造した「自製アミノ酸液」とそれを使用した混合醸造方式・混合方式しょうゆの一部には、3‐MCPDを高濃度で含むものがあることが明らかになった。
そこで、農林水産省は、平成21年度、23年度に製造事業者による低減措置の効果を検証するための調査を実施し、3‐MCPD濃度が大きく低減したこと、低減措置が有効であったことを確認している。
こうした取り組みの一環として、平成28年度も、23年度と同様に低減措置の有効性を検証するため、18年度の調査時点で自製アミノ酸液を使用していた製造事業者を対象に、混合醸造方式・混合方式しょうゆ、アミノ酸液中の3‐MCPDの含有実態の調査が実施された。さらに、低減対策の実施状況等について、当該製造事業者にアンケート調査も行われている。また、大規模に製造・販売されているアミノ酸液についても、最新の含有実態の調査が行われた。
― 調査結果の概要 ―
調査結果によると、低減対策の実施状況については、全ての製造事業者が3‐MCPDの低減に取り組んでいた。主な対策は、自製アミノ酸液製造の停止や自製アミノ酸液の製造工程へのアルカリ処理の導入だった。今後、さらなる低減対策の導入を予定している製造事業者も一社あった。
混合醸造方式・混合方式しょうゆ中の3‐MCPD濃度については、最小値が0.007mg/kg、最大値が1.2mg/kg、平均値が0.22mg/kg、中央値が0.035mg/kgだった。平成18年度と比較すると、平均値は10分の1、中央値は20分の1以下になっている。平成23年度と比べて、平均値と中央値は2分の1以下に低下している。また、3‐MCPD濃度が1.2mg/kgを超える製品は、平成18年度では全体の39%、平成23年度では13%あったが、今回の調査ではなかった。
アミノ酸液中の3‐MCPD濃度についてみると、製造事業者のアミノ酸液(自製アミノ酸液を使用、または大規模に製造・販売されているアルカリ処理がされたアミノ酸液を購入して使用)では、最小値が0.014mg/kg、最大値が5.5mg/kg、平均値が0.64mg/kg、中央値が0.072mg/kgだった。平成23年度の調査時点で、平成18年度と比べて平均値が10分の1以下、中央値が30分の1以下と著しく低下していたが、今回の調査でも同様に低い水準だった。
また、大規模に製造・販売されているアルカリ処理がされたアミノ酸液についてみると、平成16年度の調査時点で最小値が0.004mg/kg、最大値が0.14mg/kg、平均値が0.047mg/kg、中央値が0.049mg/kgと低い水準だったが、今回の調査でも、最小値が0.018mg/kg、最大値が0.29mg/kg、平均値が0.079mg/kg、中央値が0.063mg/kgであり、低い水準だった。
混合醸造方式・混合方式しょうゆに由来する3‐MCPDの推計摂取量に関しては、平均的な食生活をしている日本人が、しょうゆとして、最大値で3‐MCPDを含む製品だけを摂取し続けると仮定した場合でも、3‐MCPD摂取量は、国際機関が設定した暫定最大耐容一日摂取量(4μg/kg体重)の約1割と十分低い値だった。
こうした調査結果から、製造事業者が低減対策を実施したことにより、わが国の混合醸造方式・混合方式しょうゆ中の3‐MCPD濃度が大きく低減したこと、農林水産省が策定した低減措置が有効であることが確認された。
また今回、今後さらなる低減対策の導入を予定している製造事業者も一社あることがわかった。農林水産省では、引き続き、平成18年度の調査時点で自製アミノ酸液を使用していた製造事業者を対象に、低減措置の普及や有効性の検証を5年に一度行うこととしている。