日本電信電話(株)(NTT)と国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は、パートナーシップ協定をこのほど締結した。「脳バイオデジタルツイン」の実現と、実用化による認知症等の早期発見・予防の実現を目指す。
高齢化の進展や過度なストレスなどにより、認知症やうつ病の増加が社会問題となっている。65歳以上の認知症患者数は年々増加し、2025年には約675万人(有病率18.5%)と、65歳以上の約5人に1人が認知症になると言われ、うつ病やうつ状態の人の割合は、日本国内で新型コロナウイルスが流行する前に比べて2倍以上になったという報告がなされている。
また、これらの疾患は、体系的な治療薬・治療方法が確立されていないこと、高い侵襲性を伴う複雑な検査が必要となり患者の心理的・経済的負担が大きいことなどが課題となっている。
こうした中、精神・神経系疾患への取り組みに注力する国立高度専門医療研究センターであるNCNPとしては、脳や神経の状態・機能等を予想する「脳バイオデジタルツイン」のコンセプトに基づき、個別化医療を含む質の高い医療を実現し、これらの課題解決を目指している。
具体的には、これまで臨床や研究活動を通じて取得してきた精神・死刑系疾患の膨大なデータ等を集約し、体系的に整理するライブラリ・プラットフォームの構築や、臨床的知見に基づくデータ等の精査・選択、AI(Artificial Intelligence、人工知能)・ML(Maching Learning、機械学習)の駆使による病態のモデル化、さらに、病態の脳状態や機能を予測する「AI脳シミュレーター」が必要になると考えており、実現に向けて活動している。
NTTにおいても、脳に留まらず身体および心理を精緻にデジタルデータとして写像する「バイオデジタルツイン」のコンセプトを2020年11月に提唱し、研究開発からビジネスの提供までを実施している。
NTTは、これまで心臓をはじめとする心身のバイオデジタルツインの研究開発を実施してきた経験、ノウハウに加えて、高いレベルのAI、ML処理技術を持つことから「脳バイオデジタルツイン」の研究を加速させ、早期実現に大きく貢献することができる。
「脳バイオデジタルツイン」の実用化により期待される効果は、1)侵襲性を伴う複雑な検査が不要になることにより患者の心身負担軽減、2)検査の簡便化が可能となることによる患者の費用負担軽減、3)大型検査機器のデータ共有による小規模病院での検査・治療の実施、4)個人に依存する副作用の有無や程度の服薬前での予想、5)承認前治療薬の臨床上の効果や副作用の検証を補完すること(治療の支援)による承認の早期化・患者の負担軽減、6)臨床的所見の高度解析による発症リスクの予測と疾患の早期発見・予防、7)多種多様な病態のデータ収集・再現・解析による体系的な治療薬・治療方法の確立―など。