日本の製薬大手エーザイが米国のバイオジェンと共同で開発しているアルツハイマー病の治療薬、「レカネマブ」が来年3月にも承認申請を行う動きをみせている。これを受け、日本老年医学会などの6学会は11月26日、こうした医薬品が実用化された場合に高額となる費用や医療提供体制の構築、人材の育成などが課題になると指摘。対応策などを検討していくうえで、特定の立場に偏ることなく、今後の動向を注視しながら、連携・協力していくとする声明を表明した。
「レカネマブ」をめぐっては、今年の9月28日にエーザイが最終段階の治験で統計学的に有意な結果を得たと発表した。米国では早期承認に向けたスキームを使って申請済みであり、年明けには結果が判明する見込み。日本でもそれに準じて申請を行い、来年中の承認にこぎつけたい方針を示している。
レカネマブも含めた新たなアルツハイマー病の治療薬は、疾患の原因と考えられているタンパク質「アミロイドβ」を脳内から除去する仕組みが主流だ。エーザイの最終治験では、約1800人の早期アルツハイマー病患者などを、2週間に1回のペースで薬を投与するグループと、プラセボ(偽薬)を投与する2グループに分類。開始から1年半たった時点で、薬を投与したグループの方が症状の悪化を27%抑えられたとしている。
■ 承認されても、課題は山積
なお、アミロイドβは認知症の症状が出る数十年前から蓄積することがわかっており、重度の症状が出ているなど進行している患者へは効果が確認されていない。そのため、投与の対象は早期のアルツハイマー病患者に限定される見通しだ。
さらに6学会は、新たな治療薬について、認知機能低下の抑制効果判定が難しいこと、一定の比率で出現する脳の浮腫への専門医の的確な対応や、投与後の副反応に関するかかりつけ医や救急医療との連携が必要であることを問題点として指摘。
加えて、脳内に蓄積したアミロイドβの観察に必要となるPET(陽電子放射断層撮影)スキャンあるいはバイオマーカー検査や、投与開始後の頻繁なフォローアップが可能な医療機関は限られること、必要な検査や治療にかかる費用が高額になると予測されること、就労する若年患者への長時間の点滴治療は大きな負担となること、そして投与の対象外となる患者への適切な配慮や治療対応が重要であること、などを課題として列挙している。
そのため声明では、「これらの問題について医学的見地にとどまらず、広く社会的、心理的、倫理的、医療経済的観点を含めて意見を交換しつつ、認知症の当事者とその家族を中心に置いて、認知症の共生と治療を実現していくことが何よりも重要だ」と主張。「当然のことだが、新たなアルツハイマー病治療薬の問題は、認知症への対応をめぐる諸課題の一部であり、認知症の当事者やその家族の生活の質、あるいはウェルビーイングを高めるための治療やケアを進めてゆくことが根幹にある」と述べている。