2024年7月10日 菌が宿主の野外性比をメスに偏らせる過程を観測 石垣島のミナミキチョウ、4年で93.1%がメスに

福井大学、千葉大学、農研機構らの研究グループは、宿主をメスのみにする細菌「ボルバキア」が、石垣島のミナミキチョウにおいて急速に広まる過程を観測した。

昆虫の細胞内に生息する細菌の中には、宿主の生殖を操作するものがいることが知られている。このような細菌は、ほとんど感染性がなく、母親から子に世代を超えて伝播しながら生き延びている。しかし、オスに伝播した場合は、それ以降の世代に伝播することができない。こうした背景から、宿主昆虫の生殖を操作することによって自身の繁栄をより確実にする細菌が現れたと考えられている。

研究グループは、今回、観測により、オスとメスがほぼ1対1で存在していた状態から、4年間で、93.1%がメスといった著しくメスに偏った状態に変化したことを明らかにした。ボルバキア等の細菌が引き起こす生殖操作によって子がメスのみになる現象はいくつかの昆虫で報告されていたが、今回、こうした細菌が野外の宿主集団内で急速に広まり、短期間で宿主の集団性比を極端に歪めるまでに至ったことを世界で初めて示した。集団性比の劇的な変化は、進化、生態、行動、ゲノムなど、宿主の様々な側面に大きなインパクトを与えると考えられる。

 

昆虫の細胞内に生息する細菌が宿主の生殖を様々な方法で操作

昆虫の細胞内には細菌が生息している場合があり、その一部は、宿主の生殖を様々な方法で操作することから注目を集めている。

昆虫の約40%の種が保有していると推測されているボルバキア等の細菌が起こす生殖操作には、子のうちオスのみを殺す「オス殺し」や、子を全てメスにする「メス化」などの劇的な現象が知られている。こうした細菌は、基本的に感染性は持たず、宿主の細胞外では生きられず、宿主の母から子に世代を超えて伝播しながら生き延びている。また、母からのみ子に伝播し、父から子には伝わらないため、オスに伝播した場合はそれ以降の世代に伝播することができず、オス宿主が死ぬのを待つのみとなる。そのため、ボルバキア等の細菌の一部は、宿主の生殖を操作することで子をメスのみにするようになったのではないかと考えられている。

 

石垣島のミナミキチョウにおけるwFem保有率と性比を観測

日本の奄美大島以南に分布するミナミキチョウでは、wFemと呼ばれる系統のボルバキアによってメス化が起きていることが知られていた。

2008年に行われた調査では、石垣島のミナミキチョウは8%という低頻度でwFemを保有していること、wFemを保有したメスを実験室に持ち帰って飼育すると子が全てメスになったことが報告されている。

これまでも、オス殺しを起こすボルバキア等の細菌によって昆虫の野外性比(雌雄の比率)がメスに偏っている例は報告されている。それらの報告例は、すでに細菌が広まった後の状況の記述のみであり、いつ・どこで・どの昆虫種で・どのくらいのスピードで起こるのかは予測できないため、実際にその過程を捉えることは難しいと考えられていた。

こうした背景を踏まえ、研究グループは、「低頻度のwFem保有率がやがて上昇していくのではないか」という仮説の下、2015年から石垣島のミナミキチョウにおけるwFem保有率と性比(雌雄の比率)の観測を開始した。

 

野外でwFemが広がることで性比がメスに偏る

研究では、2015年から2022年にかけて、石垣島で合計1392匹のミナミキチョウを採集し、性比を記録した。その結果、2015‐2018年にかけて、ほぼ1対1であった性比が2019年からメスに偏り始め、2022年には93.1%がメスとなった。

また、採集した個体を持ち帰り全ての個体のwFem保有の有無をPCR法によって調査した結果、2017年以降wFem保有率が上昇し、2022年にはメスの87%がwFemを保有していた。

さらに、石垣島における野外の性比がメスに偏り始めた2019年に、野外で採集したメスを実験室内に持ち帰り、次世代を飼育し、その性比を確認した結果、wFemを保有していた個体では、たしかにメス化が起きており、野外においてwFemが広がることによって性比がメスに偏ったことが明らかとなった。

 

野外における細菌と宿主昆虫の攻防の一端を捉えた貴重な研究

4年間という短期間で、メス化を引き起こすボルバキアにより島中がメスばかりになったミナミキチョウだが、研究グループでは、今後、どの程度この性比異常が維持されるのかを継続して調査する予定だ。

また、リュウキュウムラサキというチョウでは、オス殺しを引き起こすボルバキアがまん延することによって著しくメスに偏っていた性比が、数年で雌雄1対1に回復したことが報告されている。

ボルバキアが引き起こす生殖操作への抵抗性を宿主側が獲得することで、やられっぱなしだったミナミキチョウの性比が回復に向かう可能性がある。また、ボルバキアが引き起こす生殖操作によってオスがいなくなると、石垣島のミナミキチョウは絶滅へ向かう可能性がある。

今回の研究は、野外における細菌と宿主昆虫の攻防の一端を捉えた貴重な研究として注目が集まっている。


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