東京海洋大学は川崎汽船との間で、海洋プラスチックごみに関する共同研究の協定を締結した。共同研究では、航海中の船舶が、特別な装置を取り付けることなく通常行っている海水の取りこみと濾過の過程でのプラスチック片の採取・回収能力を評価する。
プラスチックごみのうち世界で毎年約800万トンが陸上から海洋中に流出しているといわれており、生態系を含めた海洋環境の悪化や船舶航行の障害など世界的な環境課題となっている。
特に、海洋中を漂うマイクロプラスチック(5ミリメートル以下のプラスチック片)は、南極海をはじめ世界中の海で発見されており、魚介類を通して人体への影響などが懸念されている。しかしながら、大洋中を漂うこうした海洋プラスチックごみを、大きなエネルギーを費やすことなく回収する方法として確立されたものは未だに存在しない。
一方で、物資を運ぶ船舶は世界中の海を常に航行している。例えば海に囲まれたわが国では99%の物資が船で運ばれてくる。こうした船舶は、航行中に海水を船内に取り込み、濾過した海水をエンジンやさまざまな機器の冷却などに活用している。
このような船内での海水の濾過をプラスチック回収に利用できれば、航行中の大洋で、プラスチック片の浮遊量をモニターするとともに、少しずつではあるが、プラスチックごみ、特に回収が難しいとされるマイクロプラスチックを回収できる可能性がある。
今回の共同研究では、航海中の船舶が特別な装置を取り付けることなく通常行っている海水の取りこみと濾過の過程で、どの程度のプラスチック片を採取・回収することができるのかという観点で能力を評価する。
共同研究の締結に先立って行った予備実験では、実際にマイクロプラスチックが採集できることを確認している。今後、はじめに川崎汽船が運航する運搬船で航行中に海水取水ラインよりストレーナー(濾し網)でサンプルを採取。海洋大がサンプルからプラスチック片の収集、材質、サイズなどの分析を行うことで研究を進める。
将来的には、定期航路の外航船舶を活用した外洋でのマイクロプラスチックの回収と、定期航路上の海域でのマイクロプラスチックの密度のモニタリングシステムの構築など、発展的な研究につなげる。
海洋大は、マイクロプラスチックを含む海洋プラスチックごみの浮遊量を世界中の海で調査するなど、この分野で研究をリードしてきた。川崎汽船(株)グループは、海運業を母体とする総合物流企業グループとして、〝人々の豊かな暮らしに貢献する〟という企業理念のもと、〝青く美しい海を明日へつなぐ〟ことを使命として、環境負荷の低減に取り組んでいる。
この共同研究を通じて、世界中の多くの海域を航行する川崎汽船の船舶をプラスチック片のサンプル採取に活用することで、海洋プラスチックごみ研究の一層の活発化が期待される。