第3回福祉用具専門相談員研究大会が6月16日に都内で開催された。メインホールの「特別講演」では、厚生労働省の元幹部で介護保険の立ち上げにも関わった香取照幸氏(上智大学教授)が登壇。介護現場の関係者らに対し、「自立支援ということの意味をぜひ考えて頂きたい」と語りかけた。
香取氏は講演で、「自立支援とは〝自己決定〟と〝自己実現〟の2つで構成されます。これを色々な社会的リソースを使って支援するという考え方です」と解説。「自分で決めたことを自分で実現する。毎日、誰もが切れ目なく当たり前のように行っていることですよね。これが達成されることが、人間の存立、アイデンティティの基本にあります」とレクチャーした。
続けて、「自己決定、自己実現ができず、他者の力を借りなければならない状態は、そのこと自体が人間の尊厳を傷つけてしまう。介護を受ける側の人は、自己決定、自己実現ができないということを常に意識します。人にやってもらうことが増えていくと、どんどん心のバランスを崩していきます。自己決定、自己実現ができない状態が長く続けば、人間は退廃していきますし、生きる意欲を失ってしまうでしょう」と指摘。「このため、お世話をすればするほど自立を損なっていくという皮肉なことが起きます。介護者が愛情を持って献身的に支えていても、そのことが高齢者の人間性を奪ってしまうことだってあり得ます」と述べた。
そのうえで、「老いを生きるということは、自分が今までできたことができなくなっていくプロセスに直面するということ」と説明。「これを念頭に〝本人の自己決定、自己実現を支援する〟と考えないと、自立支援をしているつもりが自立を潰すことにもなりかねません。このことを日々のお仕事の中で頭の隅において頂きたい」と呼びかけた。
香取氏は最後に、「生活の継続性」「自己決定の尊重」「残存能力の活用」というデンマークの高齢者福祉の3原則を紹介。そのうえで以下のように締めくくった。
「この3つはつながっています。その人が作ってきた生活の形を尊重し、その人が自己決定することを尊重し、その人が持つ能力をポジティブに活用することで自立を支援していく。1970年代の言葉ですが今も通用すると思います。介護保険の基本的な理念はここにあります」