◆ 自動運転車の意図を周囲の道路利用者に伝えるために、モーター駆動で視線を提示できる「目」を付与した実験車両を製作した。
◆ 実験車両を撮影した映像を使用したバーチャルリアリティー環境下の実験で、視線を使った意図提示によって歩行者による危険な道路横断を低減できる可能性を示した。
◆ 本手法を自動運転車に対して適用することにより、事故のない安全な車社会の実現に貢献することが期待される。
自動運転車の社会実装に向けては多くの研究開発が行われているが、課題の一つに、周囲の道路利用者との意思疎通の難しさが挙げられる。人間の運転する車両であれば運転者とのアイコンタクトによってある程度、運転者の意思を推測できるのに対し、自動運転車ではそのようなコミュニケーションがとれず、道路利用者が自動運転車の意図を推測することが難しいため。
東京大学大学院情報理工学系研究科のチャン チアミン特任講師、五十嵐健夫教授を中心とした研究グループは、自動運転車に付けた「目」の視線を提示し、自動運転車の意図を周囲の道路利用者に伝えることで、安全性を向上できる可能性があることを実験によって示した。
実験では、まず実物の自動車にモーター駆動で視線を提示できる「目」を付けた実験車両を製作。次に、その実験車両の走行を道路横断しようとしている歩行者の視点から撮影し、それをバーチャルリアリティー環境で実験参加者に提示した。実験の結果、車両の視線によって自動運転車の停止・非停止の意図を歩行者に伝えることで、歩行者による適切な判断を助け危険な道路横断を低減できる可能性を示した。
今回、研究グループはより重要な問題である「視線の提示によって交通事故を減らすことができるのか?」について、実験により検討した。研究では、歩行者が急いで自動運転車の前を横断しようとしている状況を想定。この時、車の視線が歩行者を向いていない時は、車が歩行者を認識していない(停止しない)ことを意味すると仮定。その場合、歩行者は車の視線を確認することで道路を渡るべきではないと判断でき、潜在的な交通事故を回避することができる。逆に、車の視線が歩行者を向いているということは、車が歩行者を認識している(停止する)ことを意味し、歩行者は安全に道路を渡ることができる。研究グループは、モーターで駆動する物理的な目を付与した実験車両を製作し、それを撮影したバーチャルリアリティー環境において被験者実験を行った。
自動運転車に緯線を付与することによって、男性においては危険な道路横断(車両が通過しようとしている状況での横断)を低減できる可能性があること(49%→19%)、女性においては安全な状況(車両が停止しようとしている状態)での無駄な停止を低減できる可能性があること(72%→34%)が観察された。
自動運転の実現は、大きな社会変革をもたらすものと期待されている。しかし、その実現のためには、安全が十分に確保されていること、事故を未然に防ぐ仕組みが整っていることが重要。
現在の自動運転車の大きな問題の一つに、歩行者をはじめとする周囲の道路利用者との意思疎通の欠如があり、この問題の解決が求められている。今回の研究成果は、このような自動運転車と道路利用者との意思疎通を円滑にするための一つの可能性を示している。