情報・システム研究機構国立情報学研究所アーキテクチャ科学研究系の石川冬樹准教授らの研究チームは、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業ERATO蓮尾メタ数理システムデザインプロジェクトのもと、自動運転システムにおいて自動車の多様な操作をテストできるシミュレーション設定を自動で見つける技術を開発した。
進化計算と呼ばれる最適化技術を用いてシミュレーションの試行を繰り返し、他車の配置などに応じて、大きな加速やブレーキ、ハンドル操作などの特徴的な自車の操作が起きるようなシミュレーション設定を見つけ出すことができるという。今回の研究成果は、ソフトウェアテストについてのフラッグシップ国際会議の産業応用トラックで4月12日に発表された。
市街地での安全・信頼を向上
自動運転機能や運転支援機能に対する社会の期待は高まっており、特定の状況では運転手が注意を払わなくてもよいレベル3と呼ばれる自動運転機能を備えた車種も現れようとしている。一方で現在取り組まれている自動運転の実用化は、高速道路の渋滞時や固定のルートなどに限定されたものとなっている。市街地など膨大な状況変化が想定される環境での自動運転の実用化には、さらなる安全性・信頼性の向上が求められている。
自動運転における重要な機能の一つは、他車や歩行者の周辺状況などを踏まえ、自車が進行するべき向きや速度を更新し続け定めていく経路計画の機能。この機能においては、他車や歩行者にぶつからないという安全性はもちろんのこと、加減速や曲がり方の度合い、走行レーン遵守など複数の観点を踏まえて経路を決めていく必要がある。
そのため、シミュレーターを用いて自動車の様々な操作を検査することが盛んに行われている。シミュレーターを用いた自動運転機能のテストでは、「右折時に対向車が来る」など、考えられるシナリオを洗い出すことが広く議論されている。
例えば、同じ右折時でも、減速なく右折できる場合や、長時間減速・停止する場合など、道路状況に応じて異なる振る舞いがありえる。そのため、自動運転車を社会に送り出す際には、自動運転機能がとりうる様々な操作をそれぞれしっかりと検査する必要がある。
今回の研究では、急加速や急ブレーキ、大きなハンドル操作など、自車の特徴的な運転操作に対して、それらが長時間起きるようなシミュレーション設定を自動検索するテスト生成技術の開発に取り組んだ。
右折時の操作にも対応
今回開発した技術により、ほとんどの状況において特徴的な操作を生成することに成功。例えば信号がない交差点での右折で、向かいから来る車と右から来る車のタイミングにより、大きく減速すると同時に大きくハンドルを切るといった操作や、大きな減速後、大きな加速を行う操作が起きるシミュレーション設定を狙って生成することができた。これまでなら人間が設計することは非常に困難なケースでも、特定の操作の組み合わせを狙ってシミュレーション設定を見つけ出すことが実証できた。
プロジェクトが取り組んできた技術は、安全性や「良い」運転の基準の決め方など、各自動車会社のニーズや適用環境に合わせて広く利用できる技術となっているという。例えば、安全性評価に関する自動運転車の挙動が満たすべき責務を定めた基準に技術を適合・準拠させることも可能。今後は、国際的な標準化動向や各自動車会社のニーズを踏まえて、安全性の評価観点や適用環境に応じたカスタマイズを通して技術を具体化し、広く展開していきたいと考えている。