国立がん研究センターなどの研究チームは9日、アジア人の肺腺がんリスクを決める28個の遺伝子の個人差を同定したと発表した。これにより非喫煙者のアジア人の肺腺がんリスクは、遺伝子の個人差による影響が大きいことが明らかになった。今回の研究成果は5月26日付で英国の科学誌「Nature Communications」に掲載された。
肺がんは、がんによる死因の第1位。日本では、年間で約7万6000人が亡くなっている。その中でも最も発症頻度が高く、増加傾向にあるのが肺腺がんだ。肺腺がんは喫煙との関連が比較的弱く、患者の約半数が非喫煙者。そのため、喫煙以外の危険因子の同定とリスク診断法の確立が求められていた。なお、肺腺がんの発症は、人種の違いで差が生じることが知られており、非喫煙者の発症頻度では欧米人よりもアジア人の方が高いことがわかっている。
研究チームは、日本人を含むアジア人の肺腺がん患者約2万人と、肺がんにかかっていない15万人のデータをゲノムワイド関連解析(※1)で比較。その結果、アジア人の肺腺がんリスクを決める28個の遺伝子の個人差(遺伝子多型)を同定した。
さらに、今回同定されたアジア人の肺腺がんリスクを決める遺伝子多型の個数と、欧米人患者の肺腺がんリスクを決める遺伝子多型の個数を調べたところ、アジア人には肺腺がんリスクとして同定される遺伝子多型が多く存在していることもわかった。
また、これらを踏まえ、アジア人の肺腺がん患者で遺伝子多型を組み合わせて、肺腺がん罹患リスクを数値化できるポリジェニックリスクスコア(※2)を算出。対象の中で肺腺がんの罹患リスクが高いとされた患者を分析し、非喫煙者における肺腺がんリスクは遺伝子の個人差による影響が大きいことを明らかにした。
研究チームは今後、喫煙の有無や飲酒、ストレスなどの他の環境因子などと組み合わせて、肺腺がんリスクの高い集団を同定し、肺がんを個別に予防する手法の開発につなげていきたい考えだ。
※1 ゲノムワイド関連解析
遺伝子多型を用いて疾患リスクを決める遺伝子を見つける方法の1つ。ある疾患の患者とその疾患にかかっていない対照者との間で、多型の分布に差があるかどうかを統計的に検定して調べる。全ゲノム関連解析では、ヒトゲノム全体にわたる多型を用いて、疾患と関連する領域・遺伝子を同定する。
※2 ポリジェニックリスクスコア (polygenic risk score) /多遺伝子リスクスコア