大阪大学大学院医学系研究科社会医学講座(公衆衛生学)の磯 博康教授らの研究グループは、長時間のテレビ視聴が肺塞栓症の死亡リスクの上昇と関連することを明らかにした。およそ8万6千人を20年間追跡調査したデータを解析した結果、関連を示したもの。研究グループでは、長時間のテレビ視聴時に1時間に1回程度立ち上がったり、フットマッサージするように注意喚起することで、肺塞栓症の予防に繋がり死亡低下が期待できると指摘している。
阪大の研究グループによると、今回の研究成果のポイントは、1)1日に5時間以上テレビを視聴する人は、肺の血管に血栓がつまる肺塞栓症で死亡する確率が高いことを解明、2)これまで、長時間のテレビ視聴と肺塞栓症で死亡することの因果関係とリスクを定量的に評価した研究はなかった、3)長時間のテレビ視聴時には、1時間に1回程度立ち上がったりフットマッサージすることで、肺塞栓症を予防し、死亡リスクを低下させることが期待できる―ことをあげている。
肺塞栓症という病気は、下肢や骨盤内の血管に血液が停滞する〝うっ滞〟状態になることで、固まった血が「血栓」を形成し、これが血流に乗って肺に運ばれ、肺動脈を閉塞することで生じる。呼吸困難や胸痛など症状はさまざまだが、致死的になる場合もある。飛行機の長時間フライト後に起こる肺塞栓症はエコノミークラス症候群として知られている。
肺塞栓症の発症率は日本では欧米に比べて低いとされているが、増加傾向にあるとの報告がある。日本では体を動かさない生活習慣が広がってきており、このことが増加の一因となっている可能性がある。長時間の座位でのパソコンの使用後に肺塞栓症で死亡した例の報告もあるという。
今回の調査では、約12万人の一般の人々の協力を得て、日本人の生活習慣が疾病とどのように関連しているかを明らかにすることを目的として、1988年に開始された大規模な医学研究「JACC研究」の参加者のうち、1988年から1990年の間に日本全国45地域の70~79歳の8万6024名を対象にアンケート調査し、1日当たりの平均テレビ視聴時間ほか生活習慣に関する情報を収集した。その後、20年間にわたって参加者の死亡状況を追跡調査し、2009年末までで59名の肺塞栓症による死亡を確認した。
これらのデータを解析し、テレビ視聴時間が1日当たり2.5時間未満の人に比べて、2.5~4.9時間の人では肺塞栓症による死亡リスクが1.7倍で、5時間以上では2.5倍になるという結果が判明。また、テレビ視聴時間2時間につき40%の肺塞栓症死亡リスクの増加が認められた。
テレビを見ているときに足を動かしていないことが主な原因。したがって、肺塞栓症の予防にはエコノミークラス症候群と同様の方法が推奨される。長時間にわたってテレビ視聴等の足を動かさない状況が続くときは、1時間に1回は立って、5分程度歩いたり、ふくらはぎをマッサージするとよい。水分摂取を行って脱水を予防することも肝心だという。
研究グループは、今回の調査結果から、「テレビを長時間視聴した場合、下肢が動かず〝うっ滞状態〟に陥ることがあるとの、国民への注意喚起が必要だ」と警告を発している。