2020年4月15日 育種家の代わりに良い牧草を選出 ドローンとAIを利用したスマート育種評価法の開発

農研機構と(株)バンダイナムコ研究所は、熟練した育種家が優良な牧草を選び出す技術を人工知能(AI)が学習し、育種家に代わって優良な株の選抜を自動的に行うことができる革新的な育種評価法を共同開発した。

一例として、約1000株の牧草畑の場合、これまで育種家は優良な牧草を選び出すために2時間以上畑を歩き、肉眼観察で牧草を一株ずつ評価していた。今回の成果を活用することで、ドローンで撮影した画像からあらかじめ学習させておいたAIがこの作業を5分程度で行えるようになる。

農研機構はオーチャードグラス高糖含量品種「えさじまん」やフェストロリウム高越冬性品種「ノースフェスト」を育成するなど、牧草育種に関する高いノウハウと技術力を有しており、これまでドローンを用いた新しい育種評価法の開発に取り組んできた。今回、バンダイナムコ研究所がエンターテイメント分野で培ってきた高度なAIの技術力を取り入れることで、最新のICT・AI技術を導入した革新的な育種評価法の開発につながった。

この技術により、牧草の優良品種育成の加速化が実現し、さらには畜産物の生産性向上につながると期待される。

 

生産現場での飼料生産性の向上に向けた農研機構の取組

日本の畜産物生産については、増加している消費に対して規模拡大と頭数の確保を行うのと併せて、ICTやロボット技術の導入による生産性の向上を図る必要がある。これを実現させるための技術革新の一つに飼料作物の育種の効率化がある。

農研機構では、多収かつ高品質な牧草の新品種をできるだけ早く実用化し、生産現場での飼料生産性の向上に貢献することを目指し、最新のICT・AI技術を導入して革新的な育種評価法の開発を進めてきた。

 

革新的な育種評価法の開発 カギとなるドローンとAI

良い品種を作り出すためには、個体選抜の対象となる個体数が多いほど良いことが知られている。そのため、数多くの作物個体の特性を効率的に評価できる革新的な育種評価法の開発が求められていた。そのカギとなるツールが、ドローンとAIだ。

ドローンは広範囲の田畑について鳥瞰的な視覚情報を取得できることから、効率的な育種評価に活用することができる。AIは、深層学習(ディープラーニング)が発達してから、画像認識能力が飛躍的に高くなっている。両者の組み合わせは新しい牧草育種評価法の開発に大きな威力を発揮した。

 

評価を行う時間と場所の自由度が高まる 

育種畑に植えられた複数の育成系統(約1000個体)を、これまで通り育種家が草勢(収量を予測する指標)、罹病程度(病気の状態を示す指標)、越冬性(無事に越冬できたのかの指標)などを調査するためには、傾向をつかむだけで1時間程度は必要となり、詳細なデータを記録するためには1日かかるケースもある。しかも、日没後は評価できず、また、冬を過ぎてすぐ(札幌では4月上旬頃)に行う越冬性調査は長時間の寒さに耐えての実施が強いられる。それに対してドローンを用いれば、5分程度でほ場の状態を撮影・記録できる。空撮画像のAIによる評価は夜間に、室内で実行することができる。

 

AIによる優良個体選抜の概念

育種家と同等の精度で的確な評価が可能 

今回開発された手法では、最初にAI学習用の畑空撮画像と、対応する育種家評点のセットを準備し、このデータセットを用いてAIに学習させる。今回の研究では、学習用画像:検証用画像:試験用画像=8:1:1の比率で全個体を無作為に分類し、学習用画像と育種家評点とのセットを使ってAI(GoogLeNet)を学習させた。これにより、複数のAIモデルが作成される。これらのAIモデルに検証用画像を評点予測させ、予測点と育種家評点を比較して正答率を検証し、その結果、正答率の高かったAIモデルを選択する。選ばれたモデルに試験用画像を評価させたところ、上下1点の誤差を正答とした場合、ほぼ9割以上の正答率が得られた。1人の育種家が同じほ場を別の日に評価した場合、上下2点以上の誤差は同じ程度の割合で発生するため、この手法が育種家の代わりになり得ることが示された

評価のために撮影する際の畑の時期(草の生育ステージ)、雲の影響による太陽の明るさ、湿り具合による地面の色などが異なると、AIは正しい判断ができない。そのため、利用場面ごとにAIを学習させる必要がある。しかし、明るさや地面の色などによる影響については、種々の撮影条件下で撮られた画像を一緒に学習させることで回避できることが分かった。現在、8月下旬から9月上旬の生育ステージを評価できるAIモデルが用意できている。

 

多様で有益な品種育成を加速化するための育種法の発展への貢献に期待

これまでの牧草の個体選抜では、育種家の評価可能な個体数に限界があるため、選抜対象にできる個体数は限定されていた。しかし、今回開発された手法を用いることで、育種家の能力による限界はほぼなくなり、非常に沢山の個体数を評価できるようになった。数多くの個体から選抜できれば、優良個体が選抜される可能性は高くなる。今後、これまでよりもさらに良い牧草品種がこの手法によって生み出されることが期待される。

農研機構では、作物全般においてICT・AIを導入したスマート育種の新技術開発を行っている。牧草についての革新的なスマート育種法の開発がこの一翼を担い、多様で有益な品種育成を加速化するための育種法の発展に貢献していくとしている。

 


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