立命館グローバル・イノベーション研究機構の光斎翔貴(こうさい・しょうき)准教授は、低利用魚ドックフード「Ocean harvest(オーシャンハーベスト)」=写真=の商品化・事業化に向け、3月1日からクラウドファンディングを行っている。クラファン期間は5月19日までで目標額は150万円。
長崎県五島市周辺の海域では、「イスズミ・アイゴ」等の低利用魚が海藻類を食い漁り、重要な生態系を構成する藻場が減少する〝磯焼け〟が進行。この〝磯焼け〟問題に対処するため、水産庁は「藻場・干潟ビジョン」を策定し、対策を進めている。
立命館の光斎准教授は、この問題に着目し、低利用魚イスズミ等を人間ではなく、ペット用に加工することで、マネタイズを図る取り組みを行っている。「Ocean harvest(オーシャンハーベスト)」として発売される製品は、イスズミやアイゴの白身を使用したノンオイルコーティング、小麦グルテンフリーの総合栄養食で、栄養バランスに優れた健康食品として提供される。
広がる「磯焼け」
二酸化炭素を吸収するブルーカーボンの重要性が増すなか、長崎県五島市を囲む海では人が食べない低利用魚「イスズミ・アイゴ」等が海藻類を食い漁り、藻場が減少する〝磯焼け〟が広がっている。磯焼けは、さまざまな魚や貝類の産卵・育成やCO2吸収のために欠かせない藻場を減らす原因の一つ。藻場を減少させるイスズミ等は、一部の地域でのみ食されていますが、ほとんどは低利用魚として扱われている。
一方、イスズミ等の身は栄養価が高く、過去、幾度も食用化に向けた試みが行われてたが、下処理が難しく一般には定着していない状況となっている。
2年の歳月経て販売に目途
光斎准教授は、藻類を食す低利用魚イスズミ等を人間ではなく、ペット用に加工することでマネタイズすることを検討。人間・ペット・海洋環境に好循環を生むことを目指した。
同事業は、長崎県五島市、同市の魚卸業者である「金沢鮮魚」との連携で2022年にスタート。試作品の改良やさまざまな漁業関係者へのヒアリングを重ね、約2年の歳月を経て、ノンオイルコーティング、小麦グルテンフリーの総合栄養食「Ocean Harvest(オーシャンハーベスト)」を開発し、発売に向けた目途が立ったという。
一般向けの販売は、今秋9月頃を目指している。また、低利用魚を消費することによる藻場の回復過程を、ライフサイクル思考を用いて研究し、海藻類を食い漁る魚をどれだけ減らせば、磯焼け対策に効果があるのかを検証。全国に展開できるモデル形成を目指す。ライフサイクル思考は、製品が作られる過程から終わりを迎えるまで、ライフサイクル全体を通して環境負荷を評価する方法。
光斎准教授は、社会実装と基礎研究を融合させ、藻場の回復を通したわが国の海洋環境、低利用資源の有効活用、漁業への貢献にも寄与していきたいとしている。
地域資源を活用した日本の海洋環境、磯焼け問題を解決するために立ち上げた同プロジェクトはさまざまな関係者とのつながりにより広がりをみせている。プロジェクトでは、光斎准教授ら関係者へのインタビューをまとめた動画をYouTubeで公開している(https://www.youtube.com/watch?v=NDwt7lEkCw4)。