2025年3月11日 科学大研究Gがアプリ開発 乳児の泣き止みと寝かしつけをITで支援

東京科学大学生命理工学院生命理工学系の黒田公美教授らの共同研究グループは、乳児の睡眠と泣きの問題を科学的に支援する研究用スマートフォンアプリ『SciBaby』を開発した。保護者が5分間の抱き歩きとその後の抱き座りによって乳児の自然な眠りを誘導するのを助けるもの。乳児に装着した腕時計型脈拍センサからデータを取得し、乳児の睡眠を予測するAI開発に貢献する。

生後1歳までの乳児は通常よく泣くが、あまりにも泣きやまないと、親にとってはストレスになり、まれに虐待につながることさえある。寝かしつけには、おんぶや抱っこ、ベビーカーでの散歩など、文化によってさまざまな方法が用いられてきたが、実際にどの程度泣き止みや寝かしつけに効果があるのかを科学的に検証した研究は意外なほど少ない状態だった。

黒田研究室(当時、理化学研究所)では2013年、親が乳児を抱っこして歩くと、おとなしくなる現象「輸送反応」をマウスと人間の乳児で発見している。野生動物の親は、外敵が迫っているなどの危険な状況で子供を運ぶことが多いため、子は運ばれている間はただちにおとなしくなる方が生存に有利であるためと考えられている。さらに2022年には、5分間連続して歩くことで、泣いていた乳児の半数近くが入眠することも示した。この時の研究から、乳児の心拍や脈拍などの状態を測定することで、よりよい寝かしつけのタイミングが分かる可能性も示唆された。しかし当時の研究では、乳児の生理的状態(乳児状態)は医療用心電計で測定しており、家庭で手軽にこのような測定を行うことは困難だった。

そこで今回、黒田研究室では乳児状態の計測にウェアラブルセンサとスマートフォンを利用するシステムSciBabyを開発した。使い方は簡単。はじめに①SciBabyアプリをGoogle PlayからAndroidスマホにインストールしGoogleアカウントでログイン、研究参加に同意する(iOS版は開発中)。

続いて、②乳児がぐずっている・泣いている時、SciBabyアプリの「抱き歩きモード」を起動し、腕時計型脈拍センサPolar Verity Senseを装着する。SciBabyはセンサとBluetooth接続し、乳児状態を記録する。センサを持っていない人でも「抱き歩き体験モード」は使用でき、この場合、乳児の脈拍データは記録されず、抱き歩きしやすい音楽や残り時間がお知らせされる。乳児の状態やメモなどの記録も取ることが可能。

さらに、③安全のため歩く場所が平坦で片付いていることを確認。必要に応じ、抱っこひもやスリング(抱っこ袋)を準備し、④SciBabyの合図に沿って保護者は5分間の抱き歩きを開始。この間、SciBabyは歩きやすいテンポの音楽を再生し、残り時間を知らせる。抱き歩きは最大10分間行うことができ、その後8分間、抱いたままで座り、SciBabyの合図で布団・ベッドに寝かせる。

⑤最後に乳児の状態などを入力すると、SciBabyはWi‐Fi経由で東京科学大のGoogle Cloud Platformにデータを送信する。⑥過去のSciBaby使用時の乳児の状態や脈拍グラフは「記録データモード」から見ることができる。メモ機能もついているので、次回の寝かしつけに役立てることが可能となっている。

⑦東京科学大では、集まったデータを統計解析や機械学習を用いて検証する。将来的には、個々の乳児ごとに最適な寝かしつけやお目覚めのタイミングを伝えることができるよう、アルゴリズム開発を進めることとしている。

 


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