国立研究開発法人産業技術総合研究所は、新たな研究拠点「柏センター」を11月1日に千葉県柏市の東京大学柏Ⅱキャンパス内に設立した。AI技術の整備を通じ人間の感覚や運動機能を拡張する「人間拡張技術」を中核とした研究を推進するもので、来年4月の本格稼働を目指す。
柏センターは、医療・介護分野などさまざまな個別分野データの①収集・管理、②解析、③2次提供を行うデータ基盤の構築や、AI技術を搭載した機器などの試作・実証・評価環境の整備などを通じ、Society5.0の基盤をなす、人がもつ感覚や運動機能を補綴・拡張・増強しようとする学術分野である「人間拡張技術」を中核とした研究を推進する。多様な業界からの参画を得た産学官一体の研究拠点を構築することで、AI技術の社会実装の加速化を目指す。
柏センターには、新たな研究推進組織として「人間拡張研究センター」を設置する。また、柏センターで行われる研究を支援するため、「研究業務推進室」および「産学官連携推進室」を設置するとともに、産総研が今年度から開始した「産総研デザインスクール」の運営準備を行う組織として「デザインスクール準備室」を設置する。
柏センターの施設は、社会イノベーション棟(研究棟)とAIデータセンター棟(サーバー棟)で構成。社会イノベーション棟には、人間・環境計測やIoTセンサー・デバイス開発のための設備を整備し、「人間拡張研究センター」が中心となって研究活動を行う。AIデータセンター棟には、今年8月から本格運用を開始した大規模AIクラウド計算システム「ABCI」が構築されている。
新たな研究推進組織となる「人間拡張研究センター」は、「人間+知能機械」というシステム構成で人間単独の時よりも能力を拡張し、かつ、その知能機械の継続使用によって人間自身の能力も維持・増進できるシステムの研究、それらを社会実装するためのサービスの研究を行うことを目的とする。
これによって、人間が本来持つ体力、共感力、伝達力など能力の維持・向上、生活の満足度、意欲など質の向上、医療費やエネルギーなど社会コストの低減、産業の拡大を目指す。このために、人間の能力を拡張する技術の研究開発、人間単独、「人間+知能機械」システムの能力を計測・評価する基盤技術の研究開発、人間の能力拡張によってもたらされるリスク、社会価値、産業価値の評価技術開発と、産業エコシステムとして包括的にデザインする方法論の体系化を研究課題に据えている。
産総研の情報・人間工学領域とエレクトロニクス・製造領域からデバイス、ロボット、人間計測、サービス、デザイン、経営学の研究者を集約、融合した7チームで研究を展開する。
また、デザインスクール準備室は、社会イノベーションをけん引する産学の人材を育成する「産総研デザインスクール」の開校を視野に、スクール運営に係る業務などについて適切な管理体制を構築することをねらいとして、柏センターに設置する。これに先行して現在、昨今の「デザイン思考」の概念を取り入れた、社会イノベーションの実践に関する研究活動・協働プロジェクト活動を実際に行う人材育成プログラムを実施するための試行事業を行っている。