国土交通省はこのほど、生産性向上の推進や急速な社会インフラの老朽化への対応、東日本大震災などを教訓とした防災・減災対策の強化などを図るため、港湾施設の技術上の基準を大幅に改訂することを発表した。今回の改訂は11年ぶりで、調査・設計・施工・維持の建設生産プロセスの効率化等による生産性向上の推進を図る。既存施設の適切な維持管理や合理的な改良等による既存ストックの有効活用も進めるほか、対津波に関する粘り強い構造の高度化等による防災・減災対策の強化や、船舶の大型化への対応等による国際競争力の強化も行う。環境に関する新たな知見も含めた豊かな海域環境の保全・再生・創出に取り組んでいく方針だ。
主な改訂事項をみると、生産性向上の推進に向けた規定の拡充では、調査・設計・施工・維持管理の建設生産プロセスの更なる効率化を進める。具体的には、設計で施工・維持する際の配慮すべき項目に「ICTの活用や規格化・標準化された部材の活用等による生産性の向上」を加えたうえで、測量、観測等の調査に係る内容も広げる。一連の建設生産プロセスにおけるICTの活用や3次元データ等の共有に関する規定を追記し、i‐Constructionの推進にも取り組む。
既存ストックの有効活用の促進等に向けた規定の拡充では、設計段階での施工や維持管理で配慮すべき項目などで連携強化に係る記載を充実させることで一層の安全確保を図る。また、用途の変更や設計条件の変更などで施設を改良する際の全体手順基本事項などの考え方を明確化する。
防災・減災対策の強化に係る規定では、東日本大震災での被災事例の分析・検討を踏まえ、対津波設計での粘り強い構造等の記載を拡充、腹付工・洗堀防止工の効果の確認手法を明確にすることも盛り込んだ。石油、LPG、LNGを取り扱う荷役機械については、緊急離脱を可能とする措置の導入を規定し、震災時の被害拡大の防止や安全かつ効率的な荷役の確保を図る。設計条件(波、耐震)の見直しに当たっては、知見の蓄積を踏まえ、設計に用いる波浪に「うねり性波浪」を新たに追加。重力式岸壁について、多数の被災事例に基づく検証により、レベル1次振動に関する小作用深度式の運用を一部見直す。
国際競争力の強化及び基準の国際化に係る規定では、コンテナ船やクルーズ船の大型化を踏まえ、標準船型の船舶諸元を見直す。それに伴い、係船柱などの附帯設備の設計に関する記載を拡充する。また、遠隔操作化された移動式荷役機械を、技術基準対象施設に追加。安全かつ効率的な港湾機能を確保するための要求性能、性能規定及び危険防止に関する対策を新たに規定する。
環境への配慮に係る規定では、防波堤、護岸、岸壁、桟橋、物揚場について、生物共生型港湾構造物を整備する際、施設本来の機能を損なわず港湾の環境を保全できるよう、所要の要求性能、性能規定を定めた。自然再生に関する基本的な考え方・用語に関する記載を拡充している。そのほか、生物への配慮や生態系が果たす役割、重要な視点や、リサイクル材料の環境利用に関する記載内容も拡充している。