2017年3月2日 特養で施設内運搬ロボの実証試験 東大名誉教授らが開発、介護支援への貢献に期待

東京大学の佐藤知正名誉教授らは、研究開発活動と社会実装活動を並列的に進める「社会実装アプローチ」に基づいて、実用的な施設内運搬ロボットを開発し、去る2月13日に福島県南相馬市の特別養護老人ホームでデモンストレーションと実証テストを公開した。ロボットの研究開発に携わるだけでなく、ユーザーや普及を担うステークホルダーとともに〝共創〟するロボット学である『社会共創ロボティクス』の考え方に基づいて開発を進めてきたもの。身体介助や生活援助がある本来業務であるスタッフの間接業務に着目し、業務負担の軽減を目指していることから実用性が高く、介護支援ロボット実用化への貢献が期待される。

 

「死の谷」の中断を回避

社会共創ロボティクスでは、①アジャイル(探索的)開発、②社会共創(開発時からのユーザーフィードバック)、③社会システムの再設計、④オープンイノベーション、⑤啓発・人材育成(コミュニティ作り+現地NPO等との協力)を要点とするロボティクスを提言している。

社会実装アプローチは、その方向性をロボット実用化の観点から展開した仕掛け。これまでのように研究開発後に社会実装活動を検討・実施する直列的活動手法では、プロジェクトの道半ばで、特に研究開発と社会実装の間で、立ち消えしてしまうことが多発していた。

いわゆる〝死の谷〟や〝ダーウインの海〟といわれる壁による中断がみられていたが、社会実装アプローチは、研究開発活動とその社会実装活動を並列に実施し、直列的活動で発生しがちな中断を回避できる。ただし、この手法を適用するためには、ロボットの作業や作業環境と適用技術に関しては、次のような特別な配慮が必要となる。

 

業務時間の2割占める「間接業務」

介護施設内業務は、直接業務と間接業務に大別される。直接業務とは介護行為に関連する身体介助や生活援助のような本来業務であり、間接業務とは施設運営管理や入居者管理等のようなバックヤード業務。介護施設内のスタッフ(介護する側)は実際、全体業務の20%という時間を間接業務に強いられることが負担になっていると報告されている。

同プロジェクトでは、この間接業務の負荷軽減を可能にするロボットの実現、実用化を目指した。施設内では、食事の運搬や郵便を含む書類の運搬、洗濯物の運搬など、多様な運搬作業が存在するが、プロジェクトでは、介護施設内にある間接業務のうち、ものの運搬に関わる業務支援を目指し、今回は洗濯物の運搬を対象とした。

運搬ロボットの機能としては、どの荷物をどこからどこへ運搬するのかを指定する「ユーザインターフェース機能」、「荷物の積み下ろし機能」と「移動機能」の実現が求められる。このなかでも移動機能は基本機能であり、確実な移動を安価に実現する移動ロボ誘導技術と、移動ロボ駆動技術が求められる。

今回の運搬ロボットでは、研究グループで実績のある床に反射板を張り付ける反射板誘導方式を採用。反射板は粘着剤を片面に塗布した0.8ミリのステンレス板で、これをロボットの移動軌道にそって約0.5メートルおきに設置するという簡易な方法で、移動ロボの作業環境をユーザーの求めに対応して確実に迅速に構築することができる。

この方式は、床に張り付けた反射板のメンテナンス性や違和感への危惧からこれまで敬遠されてきたが、これらの危惧は大きな障害にならず、むしろ、確実性、安価性、設置の容易性に大きなメリットがあることが確認された。

さらに、今回の運搬ロボでは、ロボティクス分野で最も実績のある駆動方式として知られている駆動2輪と受動2輪をもつ4輪構成を採用。駆動モータとしては、これも研究グループでこれまで十分な実績を積み上げてきた100kgの荷物の運搬も可能である市販のモーターを採用することで、高信頼で安価な駆動系を実現した


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