2022年3月15日 無花粉スギの苗木だけ量産する技術を開発 DNA鑑定と組織培養で花粉症対策に貢献

(国研)森林研究・整備機構森林総合研究所、新潟大学、新潟県森林研究所、株式会社ベルディの研究グループは、無花粉スギの判別と量産法を確立しマニュアルとして公開した。未熟種子を培養し、無花粉スギの原因となる遺伝子(MS1)を目印として選別して用いることで、生産する苗木を全て無花粉スギにすることが可能。さらに、組織培養技術を活用することで試験生産にとどまらず、商業規模での大量生産も可能になると期待されている。

 

無花粉スギ導入への期待と課題

スギ花粉症は、昭和38年に日光市で初めて報告されて以来、患者数は増大し、最近の調査では国民の38.8%がスギ花粉症であると言われている。

林業の分野において行うことのできるスギ花粉症対策は、花粉飛散量の多いスギ林を伐採・収穫した後に、少花粉スギや無花粉スギへ植え替えることなどにより、花粉の発生源を減らすこと。特に、無花粉スギは全く花粉を飛散しないために、無花粉スギへの植え替えは究極的な解決策として期待されている。

しかし、無花粉スギの苗木の供給量には限りがある。無花粉スギの品種自体が少ないことに加え、交配により生産される実生苗のうちの約半数は、花粉を生産する正常な個体であるため、無花粉スギだけを選抜する工程が必要となるためである。

現状では、2~3年間育苗した実生に植物ホルモンを散布することで雄花を強制的に着花させ、花粉の有無を確認して無花粉スギを選別している。無花粉スギの普及には、この工程を効率化することが不可欠である。

 

1グラムのカルスから1000本以上の苗木を生産可能

研究グループでは、無花粉スギの量産を行うため、交配により得られた種子が未熟のうちに利用することを考えた。

まず、7月中旬から下旬に成熟する前の球果を採取する。採取した球果から未熟な種子を取り出し、培地の上で培養すると2~3ヶ月程の培養で細胞の塊(カルス)となる。これらのカルスには花粉を生産するスギと無花粉スギが約1:1の割合で含まれていることから、無花粉スギになるカルスだけを選び出す必要がある。そのため、カルスの一部を取り出し市販のDNA抽出試薬の中に入れて煮沸し、上澄みを使用してPCRで遺伝子を増幅し電気泳動でバンドパターンを確認する。無花粉スギに特徴的なバンドパターンが観察されたカルスを新しい培地に移し、培養を継続して成熟させると不定胚と呼ばれる組織になる。不定胚は種子のように発芽し、苗となる。得られた苗をポットに移して育苗するが、この時点ですべての苗が無花粉スギである。

この方法を使うと、わずか1グラムのカルスから1000本以上の苗木を生産することもできる。さらに、不定胚は密封して冷蔵保存すれば、少なくとも2年間は発芽能力を保つ。そのため、工程が管理された工場で大量生産して保管することで、年間を通じた需要の変化にも柔軟に対応することができる。

研究グループで開発した無花粉スギのDNA鑑定法は、MS1と呼ばれる無花粉スギの原因となる遺伝子に着目し、その遺伝子の変異を直接検出している。この遺伝子を持つスギは全国的に分布するため、各地域の天然林や在来品種の個体からでも無花粉スギの変異を持つ個体を見つけ出すことができる。

 

スギの活用拡大につながる無花粉スギ量産技術の確立

わが国の人工林の44%にスギが植栽されており、これらを伐採・収穫し、その後に無花粉スギの苗木を植栽していくことでスギ花粉を確実に減らしていくことができる。無花粉スギのDNAによる鑑定方法とその苗木の量産技術は、各地の環境に適した無花粉スギを育成し、花粉症対策を確実に進めるための有効な方法の一つとなる。

しかし、木材を収穫できるのは植栽してから何十年も後となるため、その間に様々な自然環境にさらされることとなる。そのため、植栽されてからどのように成長を続けていくのか、不明な点も残されている。そこで研究グループでは、マニュアルに記載した方法で生産された苗木を実際に植栽し、成長を測定している。

スギは花粉症の一因として認識されるようになったが、古くから日本人の生活や文化と密接に関わってきた。様々な環境で育ち、成長も早いことから、林業用だけでなく、都市やオフィスの緑化用にも無花粉スギを活用できると期待されている。また、無花粉スギの量産技術の確立により、社会でより広くスギの活用が広がることが期待される。


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