わが国科学者の代表組織である日本学術会議は、脱タバコ社会に向けて、禁煙指導に関する歯科大学生への卒前教育の充実も求める提言を3月と13日に行った。また、歯科衛生士が禁煙支援に取り組むための卒後研修の必要性を強調するとともに、学校歯科医を喫煙防止教育に積極的に活用すべきとの考えを示している。
喫煙関連疾患の中で歯周病はあらゆる年齢層にみられ、有病率が高く、かつ慢性に経過するため、予防・治療・保健教育の場は、絶好の喫煙防止・禁煙支援の場を提供している。WHOは「口腔保健・医療従事者・専門家は多数の喫煙者に接することができるので、喫煙者の禁煙誘導に関し重要な潜在的可能性を持っている」と指摘し、さらに、「日常的に喫煙による口腔への影響を観察しているため、喫煙の害を強く懸念している」とも述べている。
喫煙は歯・歯周組織に対して歯肉メラニン色素沈着、線維性歯肉増殖、歯の表面を黒褐色にし、不快な外観を呈すなどの影響を及ぼす。これらの口腔内所見は、専門家による指導の下で鏡などを使えば自身で直接見ることができる。また、唾液を試料用いた喫煙あるいは受動喫煙の状況を客観的に評価できる検査方法もある。
禁煙支援効果、多くの研究で実証
こうした状況を踏まえ学術会議では、「口腔疾患医療の場は、患者が直接口の中を見て喫煙の影響を確認し、あるいは唾液検査から喫煙・受動喫煙の程度を把握する機会を提供でき、禁煙への動機づけに適した場の一つとなっている」と指摘。また、歯周病に対しては継続的な治療とメインテナンスが必要で、外来受診は長期間にわたるため、歯周病治療の場は禁煙治療の場としても適している。この理由として、学術会議では、禁煙外来で効果を挙げるためには継続的な受診が必要となっていることをあげている。
実際、歯科診療の場での禁煙支援の効果は、すでに多くの研究で実証されている。しかし、わが国では口腔疾患の予防・治療の場を喫煙防止・禁煙支援の場として活用する体制が整備されているとは言い難いのが現状。
学校保健活用で大きな効果期待
健康増進と、各種疾病に対する早期発見・早期介入のために医科と歯科の連携は欠かせない。数多くの研究で歯周病が様々な全身疾患のリスク因子であることが示唆されており、重要性が一層注目を集めている。
特に、歯周病と糖尿病は双方向性に悪影響を及ぼすことから、日本糖尿病協会では登録歯科医制度を設立し、糖尿病に対象する医科歯科の連携を推進している。しかし、禁煙支援については連携が十分とは言い難く、学術会議では、「新たな制度作りを含めて連携構築が望まれる」としている。
小児をタバコの煙から守り、また、喫煙の害を教育して喫煙開始を防ぐことの重要性はあらためて指摘するまでもないが、口腔保健・医療従事者・専門家は保健・医療の場で小児に接することが多い。幼児期・学童期には慢性の疾患が比較的少ないためもあり、有病率の高い疾患は少ないが、口腔疾患は慢性に経過することも要因として、有病率が高い。
学術会議では、「子どもにとり身近な問題であるう蝕や歯周病などの口腔疾患に対する予防・治療・保健教育の場を喫煙防止・禁煙支援の場として活用できれば、喫煙対策としての効果は大であり、学校医、学校歯科医、学校薬剤師、学校保健技師が連携して、学校保健の場を喫煙対策に活用すれば、大きな効果を期待できる」と効果を強調している。
喫煙防止教育に積極的に取り組んでいる医師・歯科医師・薬剤師・保健師・看護師・歯科衛生士も少なくないが、養護教諭を含めた学校関係者との連携がうまくいかず、十分な取り組みが行えない場合も少なくない。学校での活動を通じて、学童の家族との連携や地域との結びつきを深めれば、家族全体を対象とした喫煙対策も促進できる。
歯科衛生士の卒後教育充実を
現在、歯科医師の卒前教育で、さまざまな観点から喫煙リスクの教育が行われているが、学術会議では、「歯科医師の禁煙指導・支援への取り組みの重要性に関する卒前教育をさらに充実させるべき」との見解を表明。また、歯科衛生士に対する禁煙支援教育が開始されたが、歯科衛生士が禁煙支援に取り組むための卒後研修にも取り組む必要があるともしている。