2022年9月2日 植物の交雑でトランスポゾンが活性化 遺伝情報のシャッフルで新たな変異生じさせる仕組み解明

新潟大学、農研機構、デンマークのオーフス大学、かずさDNA研究所、国立遺伝学研究所、理化学研究所らの研究グループは、植物の交雑に伴ってトランスポゾン(動くDNA配列)が活性化し動くことを、マメ科のモデル植物であるミヤコグサを用いて明らかにした。交雑は、両親が持っている遺伝情報をシャッフルし、新しい組み合わせを子孫に提供するとともに、トランスポゾンを活性化させ、新しい変異(mutation)を生じる機会としての意義を持つことが示唆された。

 

ゲノムの中を動き回るDNA断片

生物の全遺伝情報は「ゲノム」と呼ばれ、「デオキシリボ核酸(DNA)」と呼ばれるヒモ状の物質にその情報が保存されている。DNAは、A・T・C・Gの4種類の塩基を含み、それらが並んで「塩基配列」を作っている。また、「染色体」は核のゲノムDNAが高次構造をとり棒状に見える状態になったもので、例えばヒトは46本の染色体を持つ。ゲノムの中で、生物の体の主要な構成成分である「タンパク質」を作るための塩基配列情報を持つ部分は「遺伝子」と呼ばれているが、多くの動植物ゲノムでは、遺伝子以外の部分の割合の方が大きい。

「トランスポゾン」は、ゲノムの中を動き回るDNA断片で、可動遺伝因子、転移因子などと呼ばれ、「遺伝子以外」の主要な構成要素の一つである。トランスポゾンの発見者は米国のバーバラ・マクリントック博士で、トウモロコシのゲノムにトランスポゾンが存在することを20世紀半ばに発表した。後にトランスポゾンは様々な生物のゲノムに普遍的に存在することが分かった。

 

トランスポゾンの転移の意味

普通の遺伝子は、染色体上の特定の場所(遺伝子座)にある。一方で、トランスポゾンは、元の場所から違う場所へ動いたり、自分のコピーを元の場所とは離れた場所に加えたりすることができる。

トランスポゾンが転移し、遺伝子内に挿入された場合は、元のゲノム塩基配列に変異(mutation)が生じる。農作物では、果物の色のような品種間の違いの原因がトランスポゾンの転移による変異だった例が知られている。

生物の多様化に一役買っていると考えられる一方、トランスポゾンが転移しすぎると、遺伝子が破壊され生物の生存に悪影響が出る可能性があるため、普段はほとんど動かないよう転移が抑制されている。しかし、抑制されたトランスポゾンが、いつ、どうやって活性化されるのかについては分かっておらず、様々な研究が行われている。

 

交雑がトランスポゾンを活性化させる可能性をミヤコグサを使って検証

今回の研究では、交雑がトランスポゾンを活性化させる可能性について、マメ科のミヤコグサを用いて検証された。

トランスポゾンを発見したバーバラ博士は、遠縁の親同士の交雑(遠縁交雑)がトランスポゾンを活性化させる可能性に言及。この仮説を支持する研究結果が複数報告されている。しかし、近縁の親同士の、普通に起こる交雑がトランスポゾンを活性化させる可能性については、ほとんど検討されてこなかった。

ミヤコグサは、日本全土に自生する自植性(主に自家受精で種をつける)のマメ科植物で、モデル植物として広く利用されている。3つの組換え近交系集団が構築されており、いずれも片親にはミヤコグサのGifu系統が使われている。もう一方の親は、ミヤコグサのMG‐20系統、パキスタン由来のミヤコグサ近縁種、ナイジェリア由来のミヤコグサ近縁種だ。3つの組換え近交系集団のうち、1つは種内交雑集団、2つは種間交雑集団であり、交雑両親間の遺伝的な近さ/遠さと、トランスポゾンの活性化との間の関係を調べるために有用である。

解析の結果、3つの組換え近交系集団の全てで、少なくとも1種類のトランスポゾンが活性化され動いていることが分かった。特に、遠縁交雑ではない、種内交雑による組換え近交系集団でも、複数のトランスポゾンが活性化され動いていたことから、交雑によるトランスポゾンの活性化にとって、必ずしも両親が遠縁である必要がないことが分かった。また、トランスポゾンの移動先の83%は遺伝子の中であることが分かり、組換え近交系集団育成の数世代の間に、植物の生育に影響しうる遺伝的な多様性が生じていたことが分かった。

これらのことから、交雑によるトランスポゾンの活性化が、遠縁交雑のような特別なケースに限らず、ごく普通の種内交雑でも起こることが分かった。種内交雑は自然界で、また農作物の品種育成の過程で頻繁に行われているため、トランスポゾンの活性化は従来考えられていたよりも日常的に起きている可能性が示唆された。

 

農作物の交雑育種でトランスポゾンの活性化現象を有効利用できるかを検証

研究グループは今後、交雑によってトランスポゾンが活性化される仕組みを明らかにするとともに、他の植物でも同様の現象が起こるのかなどについて検証を行う予定だ。また、農作物の交雑育種でトランスポゾンの活性化現象を有効利用できるかについても検証していくとしている。


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