2022年2月25日 果実の形態的な特徴を定量的・自動的に評価する技術 AIが育種家の感性を明らかに 剥皮性と果実硬度を評価

東京大学大学院農学生命科学研究科、農研機構らの研究グループは、カンキツの果実断面の画像から、果実の形態的な特徴を定量的かつ自動的に評価する技術を開発した。

カンキツの育種では、剥皮性や果実硬度などの果実の特性の多くは育種家の感性により評価されているが、育種家の感性による達観的評価では、実際の果実で見られる多様で連続的な違いを十分に評価できていない可能性がある。また、剥皮性や果実硬度などは、育種家が果実のどのような特徴にもとづいて評価しているのか、感性の指標となる果実の形態的な特徴との関連が不明だった。

今回開発された技術と機械学習の手法を組み合わせることで、これまでブラックボックスとされてきた育種家の感性を紐解き、カンキツの剥皮性と果実硬度に関連する果実の形態的な特徴を明らかにすることができた。

 

〔果実の特性の多くは少数の育種家の感性で達観的に評価されている〕

ゲノム情報を活用した果樹の効率的な品種改良を行うためには、「剥皮性」や「果実硬度」などといった果実の特性についてのデータが大量に必要となる。しかし、カンキツの育種では、果実の特性の多くは少数の育種家の感性により達観的に評価されているため、短期間で大量かつ高精度なデータを取得することは困難である。

また、剥皮性や果実硬度などは、育種家の感性の指標となる果実の形態的な特徴が明らかになっていない。このため、画像解析などによる定量的かつ自動的な評価を行うことも難しい。

研究グループは、こうした状況を受け、カンキツ果実の横断面の画像解析により、果実の形態的な特徴を定量的かつ自動的に評価する方法を検討した。機械学習を用いて、育種家が達観的に評価したカンキツの剥皮性・果実硬度に関連する果実の形態的な特徴を明らかにするために研究を行った。

 

〔ゲノム情報を活用した効率的な品種改良の促進に期待〕

今回、農研機構カンキツ研究拠点で栽培・維持されているカンキツ108品種・系統の果実横断面の画像が供試され、プログラミング言語Pythonを用いることで、カンキツの果実断面の画像から果実の様々な形態的特徴を定量的かつ自動的に評価する技術が開発された。

研究では、育種家によって達観的に評価された剥皮性・果実硬度と、今回の研究で開発された画像解析技術によって定量的に評価された果実の形態的な特徴との関係が、様々な機械学習の手法を用いて表現された。

その結果、果芯の崩壊程度は剥皮性・果実硬度の両特性と強い関連を示し、果芯の崩壊程度が大きい果実は、剥皮が容易であり、軟らかい果実である傾向が観察された。一方、果実の面積に対する種子面積の割合は果実硬度でのみ強い関連を示し、種子面積の割合が大きい果実は硬い果実である傾向が観察された。

また、ベイジアンネットワークによる解析では、果芯の崩壊程度は剥皮性・果実硬度の両特性に、種子面積については果実硬度に対し、直接的な影響を及ぼしている可能性があることが示された。機械学習の手法の一つである深層学習(ディープラーニング)を用いた場合では、果芯やアルベドの崩壊領域の特徴が、剥皮しやすい、かつ軟らかい果実の分類に寄与していることが示された。一方で、果肉やアルベドの領域の特徴は、剥皮しづらい、かつ硬い果実の分類に寄与していた。種子の領域の特徴は、硬い果実の分類でのみ寄与していることが示された。

これらの結果により、画像解析と様々な機械学習の手法を組み合わせることで、これまでブラックボックスとされてきた育種家の感性を紐解き、カンキツの剥皮性・果実硬度に関連する果実の形態的な特徴を明らかにすることができた。果芯の崩壊程度や種子面積を改良することで、望ましい剥皮性や果実硬度を有する新品種を開発できる可能性がある。また、カンキツ果実の横断面の画像から、剥皮性・果実硬度に関連する果実の形態的な特徴のデータを自動的かつ大量に収集できるようになり、ゲノム情報を活用した効率的な品種改良の促進が期待される。

今回開発された方法論は、カンキツだけでなく、様々な果樹への応用も可能。研究グループは今後、ゲノムワイドなDNAマーカーの情報も組み合わせて、カンキツ果実の形態的な特徴の遺伝解析を行い、剥皮性・果実硬度の統合的な遺伝システムの解明を目指していく考えだ。


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