八王子市に拠点を置く東京薬科大学と高尾ビール(株)とのコラボ商品『高倉ダイコンから単離した乳酸菌を使ったサワーエール』が6月13日に発売された。順次、八王子市やその周辺地域の酒屋で、数量限定で販売される。
東京薬科大生命科学部食品科学研究室(担当:志賀靖弘助教)は、かねてから同大キャンパス内から単離した微生物を用いたクラフトビールの共同開発を高尾ビール(株)と行ってきた。昨年には東京薬科大内の薬用植物園内で栽培された「カラハナソウ」から単離された乳酸菌を使用したクラフトビールが発売され、すぐに完売になるほどの人気となった。
地元・八王子のダイコンを使用
今回、コラボレーション第5弾のサワーエールの素材となった「高倉ダイコン」は、八王子市特産の伝統野菜の一つで、〝江戸東京野菜〟としても登録されている。非常に細長い大根品種で、沢庵漬けにすると特に味が良いため、大正時代後期から市内高倉地区で盛んに生産されてきた。
しかしながら、高度経済成長期以降の生産、流通、販売におけるコスト重視の波に飲み込まれ、生産は次第に減少。現在では八王子市内の2軒の農家で、非常に限られた量しか生産されていないため、〝幻の大根〟とも呼ばれている。
同大生命科学部の食品科学研究室では、この貴重な高倉ダイコンの葉から、複数種の乳酸菌を単離することに成功。八王子市七国に研究所「明治イノベーションセンター」を置く㈱明治からの協力を得て、乳酸菌種の同定、官能試験を行い、サワーエール醸造に適した乳酸菌株を選定した。
完成したビールは、使用したホップ品種由来の柑橘香と、高倉ダイコンの乳酸菌が作り出す爽やかな酸味が特徴的な、とても飲みやすい、これからの季節に最適な味わいとなっている。
2018年4月のビールの定義変更や、2020年10月のビールの税額引き下げ、さらには世界的なクラフトビールブームも追い風となり、国内のクラフトビール市場は近年右肩上がりで成長を続けている。
〝八王子〟というキーワードのもとで研究開発されているコラボビールのシリーズは、東京薬科大学と高尾ビール(株)が拠点を置く八王子地域への研究成果の還元という当初の目的だけでなく、原料として使用する地域特産の農産物の生産者との新たな連携や、八王子市を訪問する観光客向けの土産品としての需要など、八王子地域全体の振興への貢献が大いに期待される。
また、今回の高倉ダイコンのように消えつつある伝統野菜の存在を世の中に紹介することで、これらの品種の存在意義の見直し、品種の維持や復興、これらを使用した郷土料理の発掘や開発など、八王子地域の食文化の継承や発展に繋がる可能性がある。
地域に根差したビールづくりを推進
高尾ビールと東京薬科大では、今後も同大が単離した微生物を用いたクラフトビールのシリーズを継続するとともに、八王子地域に根差したコラボレーション商品の開発を促進する方針。共同事業の目玉として、高尾ビールでは、同大キャンパス内から単離した微生物と、八王子産のビール大麦・ホップと、フルーツなど副原料を使用した東京・八王子産原料100%ビールの醸造を計画している。
今後も、高尾ビールと東京薬科大では、地域に根差したビール作りを推進し、八王子地域の活性化に貢献する方針だ。