2020年3月11日 木材使用で健康増進 森林総合研が〝睡眠〟との関連を調査研究

木のぬくもりあふれる寝室で良い眠りを―。木材・木質の内装や家具が多い寝室では不眠症となる割合が少ないことが、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所が筑波大学、帝京大学と共同で行った調査で明らかとなった。住環境により多くの木材を使うことは、林業の活性化だけでなく、人々の健康増進にもつながることが科学的に示された。

木材を見たり触ったり、木の香りを嗅いだりすると、心拍数や血圧を下げ、副交感神経の働きを活性化することなどがこれまでにわかっている。これらのことから、木材・木質材料に囲まれた住環境で眠れば、〝良い睡眠〟が得られる可能性がある。

一方、わが国の平均睡眠時間は世界的にみても短く、成人の約2割に不眠の症状がある。睡眠障害や睡眠不足による生活の質や作業効率の低下は、社会的・経済的に甚大な損失をもたらす。サラリーマンや自営業者など働く人々の睡眠を改善することは極めて重要であることから、より良質な睡眠を得るために、多方面から多角的なアプローチがされている。例えば寝酒をしないなどの生活習慣の改善が必要であることが明らかになっている。しかしながら、木材・木質の住環境が睡眠の良いのかを検証した研究は極めて少なく、判明していない事項が数多くある。

こうした現状を踏まえて、森林科学、睡眠医学、さらに働く人々の心の健康を守る医学分野である産業精神医学の研究者の共同研究により、木材・木質に囲まれた住環境の睡眠への影響を検証した。

調査対象は、2016年から2017年に茨城県と東京都の四つの職場で働いている人で、男性298名、女性373名の合計671名。年齢は22歳から68歳で、平均43.3歳。活動量計とアンケート調査を行った。

アンケート調査では、家屋の住環境や自身の寝室、睡眠の状態、生活習慣などに関する質問に回答してもらった。このなかには、室内に木材・木質の内装や家具、建具の量がどの程度あるのかといった質問もある。

さらに、不眠症の疑いは世界的に使用されている「アテネ不眠尺度」で判定。アンケート調査を統計的に解析した結果、寝室内で木材・木質が「たくさん使われている」と答えた人の86.6%が寝室に精神的なやすらぎを感じていることがわかった。「やや使われている」人は82.1%、「使われていない」人は70.8%が寝室にやすらぎを感じているとした。寝室の木材使用により、寝室に関する精神的なやすらぎに10%以上もの差がついた。

また、不眠症の疑いの割合も確認した。寝室に木材・木質が「たくさん使われている」人の25.3%が不眠症の疑いが確認されたが、「やや使われている」人は36.3%、「使われていない」人は39.8%が不眠症の疑いがあるとされた。その差は約20%。〝眠り〟に与える木材の効果があらためて浮き彫りとなった。

さらに、この傾向は、調査対象者の年齢や性別、生活週間等も考慮したデータ解析を行っても、同様の結果となった。

睡眠を改善するためには、生活習慣を見直すことが重要だが、習慣を変えるのは難しい。今回の研究は、木材・木質材料が多く感じられる寝室、つまり周りの住環境でも睡眠が改善される可能性を示すこととなった。

この研究は、働く世代を対象にしたが、研究チームでは、子どもや大学生、高齢者などの世代も対象にして検証することが必要と指摘している。また、木材・木質材料のどのような点が睡眠に影響を与えるのか、解明することが望まれる。例えば、材料の見た目なのか、吸音性なのか、匂いやその他の特長なのといったことに関しても解明することが重要。研究チームでは「日本の森林は伐って利用する時期に来ている。住環境により多くの木材を使うことは、林業の活性化ばかりではなく人々の健康増進にもつながることが期待される」としている。


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