2022年8月29日 木材中のセシウム濃度の変化を観測・解析 増加の頭打ちあるいは減少への転換を確認

(国研)森林研究・整備機構森林総合研究所の研究グループは、福島原発事故で汚染された樹木の木材・樹皮中の放射性セシウム(セシウム137)濃度を事故後1年目から現地調査によりモニタリングし、時系列解析によって事故後10年間の変化を明らかにした。

 

木材・樹皮中のセシウム137濃度の正確な把握と予測が重要な課題

東京電力福島第一原子力発電所事故で飛散した放射性セシウム(セシウム137)は、東日本の広い範囲に降下し、一部は樹木の表面に沈着し、さらにその一部は樹木の表面から内部に吸収された。また、土壌に降下したセシウム137は根から継続的に吸収され、樹木の内部に移行している。

福島県や近隣県で生産される木材を建築に使用しても外部被ばくが問題になることはないが、燃料(薪・木炭)やきのこ原木への使用は、濃縮や内部被ばくを考慮して、非常に低い濃度以下のもののみに制限されている。さらに、木材生産で大量に発生する樹皮も利用・廃棄の際に問題となる場合がある。

このため、森林管理・木材生産の計画や意思決定を行う上で、木材・樹皮中のセシウム137濃度の正確な把握と予測が重要な課題となっている。

これまで様々な研究グループによって木材中のセシウム137濃度が予測されてきたが、長期的な不確実性が高く、50年後の濃度予測値には予測モデル間で最大100倍の開きがある。また、多くの予測モデルが木材中のセシウム137濃度は増加から減少に転じると予測しているが、そうした変化が実際に観測されたことはなかった。予測精度の向上や妥当性の検証のためには、観測データの拡充と解析が非常に重要となる。

 

9地点の森林で定期的に観測 動的線形モデルを用いて解析

今回の研究では、樹齢50年前後のスギ、ヒノキ、コナラや、アカマツを対象に、福島・茨城県の計9地点の森林で2011年から2020年の間に木材・樹皮中の放射性セシウム(セシウム137)濃度を定期的に観測し、動的線形モデルを用いて経年変化傾向を解析した。

その結果、木材中のセシウム137濃度は事故後から一貫して2地点では変化がなく、2地点で減少傾向、1地点で増加傾向を示した。残りの4地点では、事故後数年間増加した後に頭打ちあるいは減少に転じたことが確認された。増加傾向を示した1地点でも増加頭打ちの兆候が見られた。

また、樹皮中のセシウム137濃度には、8地点で減少傾向が見られた。しかし、土壌からのセシウム137の吸収量が多いと考えられた地点では濃度の減少率が低い傾向にあることが分かった。さらに、1地点では例外的に濃度が全く減少していなかったことも明らかになった。

 

今後の予測精度の向上に期待

多くの樹木で木材中の放射性セシウム(セシウム137)濃度の増加が頭打ち、あるいは減少に転じたことは、樹木のセシウム137の土壌からの吸収と落葉・落枝等による排出が次第に釣り合ってきたことを示していると考えられる。こうした状態では、森林・樹木内のセシウム137の動きが事故後初期に比べて安定するため、今後予測精度が向上すると期待される。また、樹木の吸収特性の指標となる移行係数を事故後初期よりも正確に評価できるようになるということも特筆すべき点である。

一方、土壌からのセシウム137の吸収が多い森林では、木材・樹皮中のセシウム137濃度が高止まりする可能性があることも示唆された。このため、研究グループでは、引き続きセシウム137濃度の動向を注視するとともに、移行係数をより多くの地点で網羅的に調べることで樹木のセシウム137吸収の多寡を決める要因を明らかにすることが重要だとしている。


株式会社官庁通信社
〒101-0041 東京都千代田区神田須田町2-13-14
--総務部--TEL 03-3251-5751 FAX 03-3251-5753
--編集部--TEL 03-3251-5755 FAX 03-3251-5754

Copyright 株式会社官庁通信社 All Rights Reserved.