農研機構は(株)北海コーキと共同で、トラクタなどによって牽引することで暗渠管とモミガラなどの疎水材を敷設・配置して暗渠を整備できる、暗渠敷設機「カットドレーナー」を開発した。本機はトラクタ販売店などにて北海コーキより本格的に販売される。その特徴は、V字刃による土塊の切断・持上げ・破砕により、約80cmまでの深さに安定して暗渠管を挿入できる点、溝の幅が最大60cmであるため、直径30cm未満の石礫が存在していても整備できる点である。これにより、畑作物の安定生産に資する暗渠を生産者自ら簡単に整備できる。
ほ場の排水性の良好な状態での維持がこれまで以上に重要に
水田を畑転換したほ場は排水性が劣り、雨水などが溜まりやすい状態で畑作物を生産している場合が多くある。こうしたほ場では、湿害のため目標とする畑作物の収量や品質を保つことが困難となる。また、気候変動などによって局地的な長雨や集中豪雨などが増加傾向にあり、畑作物の安定的な生産のためには、ほ場の排水性を良好な状態で維持することがこれまで以上に重要になっている。
暗渠はほ場の排水性の抜本的な改善が可能な対策技術だが、施工に要する労力や費用の負担が大きいため、主に公共事業によって整備が進められている。また、石礫の多いほ場や、耕盤層を含む堅密な土層があるほ場では、暗渠敷設に使用できる技術手法が限られている。
そのため、生産者が自ら迅速・簡単に利用でき、かつ石礫を含む場合でも暗渠の整備ができる機械が求められていた。
カットシリーズの種類が増加
研究グループは今回、石礫や堅密な土層がある条件であっても利用でき、かつ生産者が自ら暗渠の整備ができる機械の開発を目指して研究に取り組んだ。特に、石礫があっても施工できること、生産者が効率的に施工できることの2点に留意して開発を進め、石礫に強い特徴的なV字刃と、効率的に施工できる開削部と暗渠管の挿入部・疎水材の投入部を一体化した構造を持つ機械を開発した。
農研機構と(株)北海コーキは、ほ場の排水性を改善する技術として、これまでに ①無資材の暗渠を構築する穿孔暗渠機「カットドレーン」、②収穫後に地表に散在しているワラなどの残渣を地中に敷設して排水溝を構築する有材補助暗渠機「カットソイラー」、③耕盤や堅盤を土層の深くまで全面的に破砕できる全層心土破砕機「カットブレーカー」― を開発してきた。これらは既に「カットシリーズ」として販売されている。今回、暗渠を整備できるカットドレーナーの開発・販売開始により、カットシリーズの種類が増え、現場のニーズに一層応えやすくなった。
カットドレーナーの特徴
暗渠敷設機「カットドレーナー」は、トラクタで牽引することで、V字刃により下端の幅が10cm、上端の幅が最大60cmのV字状の溝を作る。次に、V字状の溝の最下部に幅7cmの縦溝を開削する。さらに、同時に開削した縦溝に暗渠管(内径50mm)と疎水材(モミガラや木材チップ)を敷設する。敷設が可能な最大の深さは80cm。
カットドレーナーは、V字状に幅広く土壌が破砕された透水性の高い溝を形成することから、雨水を広く集水でき、疎水材や暗渠管までの水移動が容易になる。
カットドレーナーの機体は、前面に土壌の切断・持上げ・破砕部となるV字刃があり、その後方に直列の溝の開削部と暗渠管の挿入部、疎水材の投入部があり、独特な構造である。
カットドレーナーを牽引するのに適した車両は、農業機械を牽引するための装着部である三点リンクを有する90~150馬力程度の大型農業トラクタと農耕ブルドーザーである。
カットドレーナーによる暗渠の整備の手順では、まず、準備として、ほ場の表面に残っている残渣や刈り株をフレールモアなどにより粉砕する表面処理が必要である。また、額縁明渠などによる表面排水対策を事前に行い、機械の走行性を確保する必要がある。次に、施工として、カットドレーナーを牽引することで、V字刃により土壌を切断・持上げて土中に最大60cm幅のV字状の溝を形成し、後方の開削ユニットによりV字状の溝の最下部に開削溝を形成し、暗渠管とモミガラなどの疎水材を敷設する。さらに、後処理として、ロータリなどで耕耘し、開削された溝を埋め戻して地表面を平らにする。
暗渠の整備に際しては、暗渠管やモミガラの小袋を事前にほ場に配置し、暗渠の整備に伴いモミガラの小袋などの疎水材を供給する。また、トラクタ用クレーンを装着した場合は、疎水材を連続的に供給できるため、作業効率が高まるうえにトラクタのオペレーター1名のみで整備が可能。
排水路に設置する落水口の設置方法についてみると、排水路の法面から水平な水閘を挿入して敷設する場合は、排水路内にカットドレーナーを下ろし、排水路内の法面から、水閘を付けた落水口パイプを暗渠管に接続して、機械の進行に合わせて押し込みながら挿入して敷設する。この際、水閘を設置する位置・深さの調整が重要である。
整備後の暗渠の状況をみると、礫質土や黒ボク土のような、これまでの一般的な暗渠の整備機械では整備が困難であった土壌でも、カットドレーナーは暗渠を整備できる。
カットドレーナーの希望小売価格は308万円(2023年、税込、オプション・送料別)。
5道県6地域で実証試験を実施
カットドレーナーの主なユーザーは、農機メーカー、農家や法人、農協などの農業団体、自治体や土地改良区などの地域組織、土木建設業者を想定している。農研機構は普及のため、各地域での実演や現地実証に取り組んでおり、2023年2月末現在、5道県6地域にて実証試験を行っている。