厚生労働省は今回の介護報酬改定で、処遇改善加算を拡充・一本化する。これで介護職員の給与を、新年度で2.5%、来年度で2.0%引き上げることを目指すという。
しかし、たとえこの賃上げが本当に実現できたとしても、今の介護人材の不足は解消しないだろう。事態は更に悪化するに違いない。
理由は簡単で、他業界でより大幅な賃上げが実現するからだ。今年の春闘は5%を上回る。今回、賃金格差の更なる拡大について考えてみたい。
◆ 遠ざかる他業界の背中
連合から4月4日に発表された今年の春闘の「第3回回答集計結果」によれば、賃上げ(月例賃金)は1万6037円、プラス5.24%となった。これは前年を大幅に上回るもので、多くの労働者にとっては朗報と言えるだろう。「有期・短時間・契約等労働者」の時給ベースでも、プラス63.08円(単純平均)と前年を大幅に上回った。
「連合」と聞くと大企業をイメージする人も多いだろう。しかし、組合員300人未満の中小企業も加盟している。それらに対象を限っても、賃上げ(月例賃金)は1万2097円、プラス4.69%となっている。
介護職員の皆さんには、ぜひ自分の月収や時給がどれくらい上がったかを確認して頂きたい。こうした他業界の水準に達しているだろうか。おそらく、「達している」と答える方は多くないはずだ。
追記:東京都はやや状況が違う。介護職の給与を月1万円から2万円引き上げる独自策を新年度から講じる。
厚労省が説明する介護職の新年度の賃上げ率は2.5%。他業界に遠く及ばない。しかも、処遇改善の補助金や加算は多職種にも配分される。それ自体はまっとうなことだが、結果として事業所・施設内での賃上げ効果は更に薄まってしまう。個々の経営努力に期待したいところだが、十分な余裕のある事業者は少ないのではないだろうか。
◆ 更なる賃上げが不可欠
厚労省の資料によれば、2024年2月の全産業の有効求人倍率(季節調整値)は1.26倍と高水準のままだ。インバウンドの活況などもあり、他業界の求人は以前にも増して目立つようになってきている。
筆者も教え子の学生にアルバイト事情をよく聞くが、時給などの条件は更に良くなっているようだ。政府は継続的な賃上げの実現に力を入れており、今後もしばらく今の状況が続いていくとみられる。
確かに、今回の介護報酬改定では介護職の給与が引き上げられる。ただ春闘の結果をみると、介護業界と他業界の賃金格差は更に広がると言わざるを得ない。
本来であれば、春闘の賃上げ率を見込んで介護報酬の引き上げ幅を議論すべきであった。このままでは、介護業界が労働市場の中で完全に取り残されてしまう。
更なる賃上げが不可欠なことはもはや明白だ。政府は今年度、来年度の臨時改定も視野に、追加的な処遇改善策を早急に検討すべきではないだろうか。