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農研機構、理化学研究所、ロシアのカザン大学を中心とする研究グループは、乾燥保存可能な昆虫細胞で大量のタンパク質を作り出すプロモーター（タンパク質を作り出すための遺伝子のスイッチ）を発見した。
干からびても死なない昆虫として有名なネムリユスリカから樹立した培養細胞「Ｐｖ１１」は、１年もの長期間の常温乾燥保存が可能な細胞。このＰｖ１１細胞で人為的に合成させたタンパク質は、細胞をまるごと乾燥させることにより、その働きを保ったまま長期間乾燥保存できる。しかし、Ｐｖ１１細胞で働く従来のプロモーターでは、合成できるタンパク質の量はあまり多くなく、Ｐｖ１１細胞を物質生産などに応用するには不十分だった。
今回の研究では、ネムリユスリカのゲノム研究を進める過程で、強力なプロモーターを発見。「１２１」と名付けられたこのプロモーターは、昆虫細胞用の市販キットに含まれるプロモーターと比べて、タンパク質を作り出す能力が約１５００倍高いことが分かった。１２１プロモーターを利用することで、Ｐｖ１１細胞を物質生産の場として使えるようになった。また、１２１プロモーターは、ショウジョウバエ、カイコなど、ネムリユスリカ以外の昆虫の細胞でも強力に働くことが分かった。
１２１プロモーターについては、昆虫培養細胞を用いた有用物質生産等への利用が期待されている。
昆虫細胞の応用利用への期待
昆虫細胞は室温で増殖可能な上、培養のために炭酸ガスが不要なため、哺乳動物細胞と比べて比較的簡便かつ安価なタンパク質合成系として知られている。実際、Ｓｆ９細胞やＨｉｇｈ Ｆｉｖｅ細胞など、いくつかの昆虫細胞は物質生産に利用されているが、ほとんどの昆虫細胞は応用利用されるまでには至っていない。しかし、昆虫そのものは極めて多様性に富む生物であるため、昆虫細胞には未利用資源としての魅力が豊富にある。例えば、干からびても死なない昆虫として有名なネムリユスリカから樹立した培養細胞「Ｐｖ１１」は、１年もの長期間の常温乾燥保存が可能な細胞である。このＰｖ１１細胞に人為的にタンパク質を合成させて、細胞まるごと乾燥させることで、合成したタンパク質の活性を長期間乾燥保存することができる。しかし、Ｐｖ１１細胞で働く従来のプロモーター（タンパク質合成のスイッチ）では、人為的に合成できるタンパク質の量はあまり多くなく、物質生産などに応用するには不十分だった。
ネムリユスリカの遺伝子のプロモーターに着目
ネムリユスリカの培養細胞Ｐｖ１１では、市販キットに多く利用されている恒常活性プロモーター（ＩＥ２プロモーターやＣＭＶプロモーター等のウイルス由来のプロモーター）がほとんど機能しない。そのため、ネムリユスリカのハウスキーピング遺伝子の一つであるＧａｐｄｈ遺伝子のプロモーターを利用してきたが、大量のタンパク質を合成することはできなかった。
こうした状況の中、研究グループは、ストレスの有無に関わらず恒常的に高発現しているネムリユスリカの遺伝子のプロモーターに着目。その結果、Ｐｖ００４４３と呼ばれる遺伝子の‘５上流領域に、期待するプロモーターが存在することを見出した。
強力なタンパク質合成示す「１２１」
「１２１」と名付けられたこのプロモーターは、既存のプロモーターと比べて極めて高いタンパク質合成活性を示す。Ｐｖ１１細胞に発現させると、ネムリユスリカＧａｐｄｈプロモーターの約８００倍、昆虫細胞用の市販キットに含まれるＩＥ２プロモーターの約１５００倍もの強力なタンパク質合成活性を示した。
また、１２１プロモーターは、ネムリユスリカ以外の昆虫の細胞でも、タンパク質合成スイッチとして作動できることが分かった。Ｓ２細胞（キイロショウジョウバエ由来）、ＳａＰｅ‐４細胞（センチニクバエ由来）、Ｓｆ９細胞（ツマジロクサヨトウ由来）、ＢｍＮ４細胞（カイコ由来）、Ｔｃ８１細胞（コクヌストモドキ由来）で、市販キットで広く使われている昆虫細胞用プロモーターに匹敵するような高い活性を示した。このことから、１２１プロモーターは、生物種に限定されない汎用性の高い昆虫細胞用プロモーターと言える。
〝合成〟〝保存〟を両立する効率的な有用物質生産系の構築への貢献と期待
１２１プロモーターを利用することで、Ｐｖ１１細胞を物質生産の場として使えるようになった。また、１２１プロモーターの高い汎用性から、様々な昆虫の細胞において、市販されている機能的プロモーターのセカンド・チョイスとして利用されることが期待される。
昆虫細胞は室温で増殖可能な上、培養のために炭酸ガスが不要なため、哺乳動物細胞と比べて比較的簡便・安価なタンパク質合成系である。今回の研究の成果は、「合成」と「保存」を両立する効率的な有用物質生産系の構築に貢献すると期待されている。
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