2023年5月19日 昆虫の力で食品廃棄物の臭気を抑制 育てた昆虫はタンパク質資源として利用可能

農研機構、東京大学、筑波大学の研究グループは、アメリカミズアブ幼虫の腸内細菌叢を含んだ飼育残渣を食品廃棄物に加えることで、食品廃棄物が発生する臭気を抑える技術を開発した。この技術は、ミズアブを使った食品廃棄物の処理時に生じる悪臭の問題を解決し、ミズアブ処理による食品残渣のリサイクルの拡大と昆虫タンパク質の生産拡大に貢献すると期待されている。

 

〈有機廃棄物の処理が温室効果ガスの発生源に〉

現在、世界で生産される食料の約1/3が消費されずに廃棄されている。日本国内だけでも年間1億トンに及ぶ有機廃棄物が発生し、大きな社会問題になっている。一方で、魚類や家畜の飼料を確保するために、地球上の生態系にゆがみが生じるほどの資源乱獲や資源消費型の農業生産が行われている。また、これらの過程で生じる有機廃棄物の処理では、エタノール・メタン発酵や加熱焼却による最終処分が行われており、地球温暖化の原因である温室効果ガスの発生源になっている。地球温暖化を防ぐ真の持続的循環型社会の実現のためには、有機廃棄物の処理問題を解決する必要がある。

食品廃棄物を再利用する取組は進んできているが、有機廃棄物の効果的かつ経済性のある資源回収技術はまだ十分に確立されておらず、化石燃料を必要としないリサイクル技術はほとんどない。この問題を解決するために、生ごみや糞尿などの有機廃棄物をよく食べて育つことのできるアメリカミズアブを利用した有機廃棄物の分解・再資源化方法の開発が進められている。育ったミズアブはニワトリや養殖魚の餌として有効であり、化石燃料をほとんど必要としないリサイクル技術として産業化が期待できる。

 

〈悪臭を抑制する技術開発とメカニズム解明〉

現在、ミズアブの大量生産は、餌を平型トレーに入れて幼虫を飼育する大型の飼育装置で行われている。また、ミズアブの餌として、食品加工残渣、農業残渣等の有機廃棄物を用いており、作業の効率化や水分蒸発の促進のために、飼育容器には蓋をせずにミズアブを飼育している。その結果、餌として与えた有機廃棄物は、雑菌の繁殖などにより腐敗し、悪臭を発生する。ミズアブを利用した廃棄物処理プラントでも、蓋を使わないため悪臭対策は容易ではない。また、飼育作業員の労働環境という点からも、悪臭を抑える飼育技術を開発する必要がある。

そこで研究グループは、悪臭を抑制する技術開発を試みるとともに、そのメカニズムを解明した。

 

〈ミズアブ幼虫の飼育で二硫化メチル、三硫化メチルの発生量が減少〉

食品廃棄物から生じる臭気は悪臭防止法で規制された特定悪臭物質を含み、カビ臭、糞便臭等として知覚される。実験では、「容器中の食品廃棄物にミズアブ幼虫を3頭または10頭を投入して7日間飼育した場合」と「食品廃棄物のみ放置してミズアブを飼育しない場合」で臭気の成分を比較した。その結果、特定悪臭物質の代表的成分である二硫化メチルと硫黄臭を放つ三硫化メチルの発生量が、ミズアブ幼虫の飼育により大幅に減少した。

続いて、実験後の残渣や食品廃棄物中の細菌叢を調べるため、メタゲノム解析を行ったところ、ミズアブ飼育により残渣の細菌叢が変化し、全体の細菌叢の多様性は減少することがわかった。ミズアブ幼虫の腸内細菌叢に由来する細菌が、悪臭の要因となる物質の代謝・分解に関わる酵素を有するため、悪臭が抑制されたと考えられる。

次に、幼虫の腸内細菌叢を含んだ飼育残渣(ミズアブ幼虫の腸内細菌叢またはその糞等の処理物)を食品廃棄物(おから)に添加することで、食品廃棄物が腐敗する際の臭気の発生を最大1/7に抑制できることを明らかにした。

今回の研究により得た発明の食品廃棄物の再資源化システムでは、まず、食品廃棄物でミズアブ幼虫を飼育した残渣を採取し、新しく餌として与える食品廃棄物に混合する。この前処理により、食品廃棄物が腐敗して臭気を発生することを抑制しつつ、効率よく分解処理することができる。

 

〈処理プラントの設置促進に期待〉

食品廃棄物は住宅地や食品工場など人口が密集する地域で大量に発生し、また移動にコストがかかることから、ミズアブによる廃棄物リサイクル処理プラントは人々の生活域の近隣に設置することも想定される。その際に、処理プラントから悪臭を発生させない技術が求められている。今回の研究により、食品廃棄物処理の最大の問題である臭気の問題が改善することから、日本において処理プラントの設置が促進されることが期待される。

こうした育てたミズアブは、主に魚粉に代わるタンパク質源として、養殖魚の餌に利用することができる。研究グループでは、現在、ムーンショット型農林水産研究開発事業において優良系統の育成や飼育技術の改良等を進めている。昆虫をタンパク質源とすることは、地球規模のタンパク質危機の回避や温暖化ガスの放出の縮減にも貢献するものと期待されており、ミズアブはその中でも資源循環に資する好適な有用昆虫のひとつである。

研究グループでは、今後も日本国内で多くの処理プラントが設置できるよう技術開発面で貢献していくとしている。


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