早稲田大学スポーツ科学学術院の渡邉大輝助教らの研究グループが65歳以上の地域在住高齢者4165名を対象に行った調査で、運動機能などが低下した状態である「フレイル」の有無によって、死亡リスクを減らすための一日当たりの最適な歩数が異なることを初めて明らかにした。高齢者全体とフレイルでない高齢者では、歩数と死亡リスクの量反応関係の結果から1日当たり約5000‐7000歩で死亡リスクへの有益な効果が頭打ちになるという。
また、1日当たりの歩数が5000歩未満の者が歩数を1000歩増やすことで、死亡リスクが9‐10か月の寿命延長に相当する23%低下するが、5000歩以上の者が歩数を増やしても有益な効果はみられなかった。フレイルに該当する高齢者では1日当たりの歩数が約5000歩まで死亡リスクに有益な効果を示さなかったが、約5000歩を超えると死亡リスクと負の関連があることを示した。
フレイルは、身体的機能、精神的および社会的な活力などの心身の予備能力の低下がみられる状態で、健康な状態と要介護状態の中間に位置する。フレイルは年齢とともに該当者が増加するため、日本を含む高齢社会を迎える国々が抱える健康問題の一つとなっている。フレイルには〝適切な介入により再び健康な状態に戻る〟という可逆性が包含されているため、フレイルの状態を改善し得る生活習慣等が世界中で研究されている。
身体活動不足は健康に悪影響を及ぼし、寿命を縮める。1日当たりの歩数は誰でも簡単に理解することができる身体活動量の客観的な尺度。歩数は身体活動量の目標設定を容易にし、自身の歩数を知ることで身体活動量を増やす動機付けを高めるために効果的で、寿命を延ばすために高齢者が日々達成可能な歩数の目標値を設定することが重要。しかし、高齢者の客観的に評価した身体活動量と死亡との関連が、フレイルの有無によって異なるかどうかは不明だった。
死亡リスク、7千歩で頭打ち
研究グループは、歩数を評価してから中央値で3.38年間追跡調査を行い、死亡の発生状況を確認した。追跡期間中に113名が亡くなったが、歩数が最も多いグループと比較して歩数が最も少ないグループでは生存率が有意に低い(死亡率が高い)ことが示された。
歩数が多いほど死亡リスクが下がるという関係は、約5000‐7000歩で効果が底を打つことが明らかとなった。一日当たりの歩数が5000歩未満の者が歩数を1000歩増やすことで死亡リスクは23%低下するが、5000歩以上の者が歩数をさらに増やしても有益な効果はみられなかった。
現状ですでに歩数が多い人だけでなく、座りがちで歩数の少ない高齢者も、今より少しでも歩数を増やすことで、より長生きできる可能性が高まることが示唆された。
研究ではさらに、歩数と死亡イベントの量反応関係をフレイルの有無によって層別分析を行った。研究の高齢者全体のフレイル該当割合は24.7%。フレイルの高齢者では、一日当たりの歩数が約5000歩まで予後に有益な効果を示さなかったが、歩数が約5000歩を超えると死亡リスクが大きく下がった。フレイルでない高齢者は高齢者全体の結果と同様で、一日当たり約5000‐7000歩で死亡リスクの減少効果が底を打つことがわかった。これらのことから、高齢者ではフレイルの有無によって歩数と死亡リスクの関係が大きく異なる可能性が示された。