緊急場面で衝突を回避するため、自動的にハンドル操作を行う、もしくはドライバーのハンドル操作を支援するシステム(衝突回避横方向制御システム)を搭載した車が、市場に導入され始めている。経済産業省は、このシステムに関する日本発の国際標準が発行されたことを発表した。この標準に基づくシステムを搭載した自動車が普及することで、交通事故の減少につながることが期待される。
脇見運転や漫然運転時に前方の歩行者、自動車、ガードレールなどに気付くのが遅れてしまい、適切な回避操作を行えなかった結果、死亡事故に至るケースがある。このような緊急場面において、周囲の状況を瞬時に正しく判断して、適切なハンドル操作を行うことは難しいと考えられる。現在、緊急場面でのハンドル操作による衝突回避、又は被害を軽減するため、横方向への回避を自動的に制御するシステム(衝突回避横方向制御システム)を搭載した自動車が市場に導入され始めている。この制御システムは、既に導入が進んでいる衝突被害軽減ブレーキシステムと合わせ、自動運転の高度化の下地となる大変重要な技術でもある。
この標準は、国際的に統一された機能要件や性能評価手法に基づく、安全性の高い衝突回避方向制御システムの一層の普及を目指し、公益社団法人自動車技術会が提案。日本が国際議長を務め、先進技術を用いた車両の運転システムや自動運転システムに関する標準作成を行っているISO(国際標準化機構)/TC204(ITS高度道路交通システム)/WG14(走行制御)で議論され、令和5年2月23日に国際標準として発行された。
衝突回避横方向制御システムは、衝突危機のある場面において、①システムが自動的にハンドル操作回避を行う、②ドライバーが警報にて衝突危険に気付き、ハンドル操作を行ってからシステムがハンドル操作回避の支援を行う(ハンドル操作量不足を補う)、の動作を取る。
今回発行された国際標準ISO 23375では、どちらのシステムであっても対応できるように、それぞれの衝突回避を行う際の機能要件(対象障害物の設定、作動速度の条件、システムの状態通知、回避要件など)と性能評価方法(試験手順、試験環境及びコース条件、ダミーターゲットの設置法、合否判定基準など)を規定した。
このシステムはハンドル操作を行うことから、誤作動や二次衝突を防ぐための非常に高い信頼性が求められる。日本の複数の部品メーカーは、この高い信頼性を担保するために欠かせない高性能な各種部品(カメラ、レーダー、車載コンピューター、電動パワーステアリングなど)の供給が可能であり、日本の自動車メーカーもそれらの機能を構築できる技術力を有している。
さらに、システムが自動的にハンドル操作回避を行う動作を取る車両を、日本の自動車メーカーが先行して市場に導入しており、今回の標準によって、その技術力を十分に発揮することが期待される。
この標準に基づく、衝突回避横方向制御システムを搭載した、一定の安全性を有する自動車が普及することで、自動車による交通事故の減少につながることが期待される。さらに、交通事故に起因する渋滞が減少することで、省エネルギーにつながることも期待される。