(国研)国際農林水産業研究センター(JIRCAS)は、海外の国際農業研究機関や大学などと共同で、農業由来の深刻な温室効果ガスである一酸化二窒素(N2O)の発生を抑制する力を持つ作物品種の育成に向け、研究を加速化させる必要があることについて提言を打ち出した。その中では、温室効果ガスの削減による気候変動の緩和は喫緊の課題だとしており、今後増え続ける人口増加と穀物需要に対応する「第二の緑の革命」に向けて、環境に優しい持続的な農業技術の開発を急ぐ必要があるとしている。
大量増産を可能にした窒素肥料 過剰な投入で環境負荷の増大を招く
窒素肥料の多量投入は、穀物の大量増産を可能とした、緑の革命を実現させた一つの大きな要因である。しかし、その後投入量はさらに増え、現在では多くの地域で過剰状態となっており、環境負荷の増大が深刻な問題となっている。
畑作物では、一般に、投入された窒素肥料のうち、植物体が吸収利用するのは1/3程度である。残りは、一酸化二窒素(亜酸化窒素、N2O)などの気体となって失われ、地下水などに流れ出て環境を汚染してしまう。
地球の温暖化をもたらす温室効果ガスの排出量をみると、その約24%が農業活動に由来している。特にN2Oは、二酸化炭素(CO2)の約300倍の温室効果を持ち、人為的発生源のうち約5割のN2Oはこうした農業活動に由来すると言われている。
今後、世界的な人口の急激な増加による農業生産の増大にともなって窒素肥料の使用量が増えると、結果としてN2O発生量も増加する。これまでにも、硝化抑制剤入り肥料や被覆肥料など、N2O発生抑制技術が開発されているが、コストが高く、ほとんど普及していない。このため、新たな削減技術の開発が強く望まれている。
地球環境の改善と作物の生産性向上に 効果的に働くBNI、実用化が急務
JIRCASでは、これまで「生物的硝化抑制(BNI)」に関する研究を行ってきた。最近の研究では、一部の農作物が自身の根から物質(ブラキアラクトンやソルゴレオンなど)を分泌して効率的にN2Oの発生を抑制するとともに、農作物による窒素吸収が増え、生産性が上がることを明らかにしている。
また、JIRCASは、国際農業研究機関や大学とともにBNI研究の連携を図るため、2015年に国際BNIコンソーシアムを立ち上げた。翌年9月には、茨城県のつくば市で国際BNIシンポジウムを開催している。多くのコンソーシアムメンバーが参加したこのシンポジウムでは、「生物的硝化抑制」が地球環境の改善と作物の生産性向上の両方に効果的に働く画期的な技術であり、BNIを利用した実用化技術の開発が急務であるとの共通認識が持たれた。
研究開発の緊急性を世界に発信 新しい農業の形に大きな期待
今回の提言は、昨年9月のシンポジウムで確認された、BNI技術の革新性と、その活用に向けた開発研究の緊急性を世界に発信するもの。この新技術の活用には、BNI能力を高めた農作物の品種開発が効率的・効果的である。現在、JIRCASでは、国際農業研究機関と共同でソルガム(モロコシ)、コムギ、熱帯牧草でこの機能を有する品種の開発に向けた研究に取り組んでいる。
将来的に新品種が広く栽培されるようになれば、農地からのN2O発生や水質汚染が減り、作物による窒素吸収量が増加する。そのため、窒素肥料の使用量を減らし栽培コストを抑え、環境に優しい農業が実現すると期待されている。また、この技術が広い範囲の作物種でも展開されることに大きな期待が寄せられている。