慶応義塾大学医学部の佐野元昭准教授、後藤信一助教らの研究グループは11日、胸の痛みで救急外来を受診した患者の心電図1枚からカテーテル治療が必要かどうかを、80%以上の精度で判断するAIを開発したと発表した。これにより、日本人の死因で第2位の心臓病による死亡が減少し、健康寿命の延長に貢献することが期待されている。研究結果は米国東部時間の9日に、科学誌「PLOS ONE」オンライン版に掲載された。
研究グループは、過去に慶応大学病院の救急外来を受診した約4万人分の患者の心電図データを収集。集めた心電図それぞれにつき、測定した電圧を順番に並べたデータ(時系列データ)を作成し、これに対して、実際にカテーテル検査を行い冠動脈を広げる治療を行ったかどうか(カテーテル治療の必要性)を正解(教師値)としてAIに学習させました。その結果、AIは、心電図1枚から瞬時に高精度でカテーテル治療が必要な患者を高い精度で見つけ出すことに成功した。
心臓は一度傷つくと自然に再生することがない。例えば、病気などで心筋細胞が壊死した場合、心臓の機能は低下。最悪、心不全の発症や死亡につながる可能性がある。残された心筋細胞が十分な機能を維持するためには、現時点で心臓移植以外の治療法はない。こうした心筋細胞の損傷につながりかねない急性心筋梗塞の最終的な検査には、手足等の動脈から心臓近くまで細い管を挿入し、患部画像を映し出すカテーテル検査が用いられる。検査では血管のつまりを確認し、必要があればそのまま治療に移行することが可能だ。血流の再開が急務な救急医療の現場では、心臓の血管に病変がある可能性が高い場合、検査に進むことが多い。
ただし、血管に器具を挿入するカテーテル検査にはリスクがあり、胸痛を訴える患者全員にやみくもに行うことはできない。本当にカテーテル治療が必要な患者を見分けるため、現在は経験を積んだ循環器内科医が、病歴、血液検査、心臓超音波検査等を勘案して総合的に診断している。一方で、こうした医師の診断に必要な検査は心電図に比べ非常に時間がかかるため、血流再開が遅くなってしまう一因になっていたという。