21世紀に入ってから、わが国の学術、特に理学工学系の学術の国際競争力は急速に衰退し、過去20年間に起こった世界的な電子ジャーナル化の波にわが国は対応できずに周回遅れになったといわれている。日本学術会議は、「これからの10年は学術情報流通の大変革期に入る。対応を誤ると世界の潮流からさらに取り残された存在に追い込まれるが、一方では周回遅れから挽回する〝最後の好機〟でもある」との認識を示し、わが国の学術情報発信力の向上に向けて「学術情報流通の大変革時代に向けた学術情報環境の再構築と国際競争力強化」の提言を取りまとめ公表した。
学術会議では、今こそ学術に関わる全ての構成員、すなわち科学者、学術コミュニティ、教育研究機関や図書館組織、研究資金配分機関や政府、その他の関係機関が学術情報環境のあるべき姿を模索するとともに、その再構築とそこに至る現実的な道筋について、それぞれが深い内省をもとに協働して創り上げる必要があると強調している。
提言では、1)学術誌購読費用とAPCの急増に対応する国家的な一括契約運営組織の創設、2)トップジャーナル刊行を核とする学術情報発信の機能強化と国際競争力向上、3)理学工学分野のオープンデータ/オープンサイエンスの発展を支える組織の創設、4)学協会の学術情報発信の機能強化に向けた共同刊行組織の創設―を求めている。
電子ジャーナルの一括契約を
学術会議では、電子ジャーナル購読契約については、機関別契約を廃止するとともに論文掲載料の定額制を含む一括契約により、誰もが学術情報にアクセスし、成果を出版できる環境を実現すべきだとし、そのためには、経費の徴収、予算管理や契約交渉を長期的に担当するための新法人組織を設立し、必要な人材を育成する必要性を指摘。第一歩として旧帝大系7大学や研究大学、国立研究開発法人などの類似した機関群を束ねた一括購読契約を直ちに始め、これを核として順次拡大して学術情報環境維持と経費削減を実現すべきだとしている。
日本型出版モデルの確立・提供
また、国際的プロフェッショナルによる理学工学系分野のトップジャーナル刊行を国の支援で行うべきだとし、これを核として国際競争力のある学術誌の編集・出版サービスの提供と人材育成を進める新法人組織を創り、学協会の零細な出版事業を集約した共同刊行法人への技術的支援により出版の高度化を目指すよう求めている。新組織においては、AI技術を利用した機械翻訳による日本語論文の多言語同時出版や編集・出版の援用システムの開発を進め、言語の壁を越えた新しい日本型出版モデルを確立・提供するよう提唱している。
OD/OS支援と人材育成
さらに、オープンデータ(OD)/オープンサイエンス(OS)時代のジャーナル出版を支援するために、学術コミュニティが自由に利用できる永続性のある研究データリポジトリと是尾を管理する新法人組織の創設を提唱。適正な費用分担のもとに資金管理を行い、技術サービスやノウハウを蓄積し、OD/OSに資する研究支援と人材育成を行うべきだとしている。また、要求される知財リテラシーと倫理教育を大学等の高等教育機関で必須科目として、OS時代に相応しい研究者と研究データ管理の新しい専門職人材を養成する必要性を訴えている。
学協会の機能強化へ共同組織
少子化の急速な進行もあって、新陳代謝や連携・連合・統合が進まず、改革のスピードも遅いまま「ガラパゴス化」が進行している学協会に対して、連合体や大規模な公益法人統合体への新陳代謝を進める努力を継続し、持続可能性が低い学協会は存在意義と将来ビジョンを社会に示す必要があると警鐘を鳴らしている。その上で、出版や国際研究集会など、共通化・集約化が可能な部分について早急に共同事業化を進め、中間段階として連合体の形成を検討すべきだと指摘。特に、出版の人材育成と機能強化を支援する法人組織と協働し、学協会が協力して学術誌の高度化を進める共同刊行の法人組織を創設し、大規模な読者層に向けた国際競争力に優れた学術誌群の出版を推進するべきだとしている。