2024年10月3日 失われた〝幻の川〟を発見 都市河川の環境管理への貢献に期待(北大)

北海道大学大学院地球環境科学研究院の根岸淳二郎教授らの研究グループは、北海道札幌市を流れる石狩川水系豊平川で、河床から湧出する地下水の特性と河川への影響、起源となる流域河川水や、流域の過去景観を観測・解析した。その結果、札幌市中心部の中流区間で見られる地下水は標高約200メートル程度の低地由来であり、その湧出域は過去に存在していた低地を流域とする支流の合流部と重複していることを明らかにした。硝酸態窒素などに富む水質であり、都市化などの影響を受けた地下水と考えられる。さらに、河床から湧出することで河川内の一次生産を高め、河畔の徘徊性無脊椎動物の個体数の増加へと波及していることも解明。研究グループでは、「都市化によって表面的に失われた支流が現在も河川と河畔に影響を与えて続けている」と指摘。この研究の成果により、より良い都市河川の環境管理に一歩近づくことへの期待感を表明した。この研究成果は9月30日に国際学術誌「フレッシュウォーター バイオロジー誌」に掲載された。

身近に存在する扇状地河川で、主に扇状地末端で湧出する地下水がさまざまな生物にとって重要な役割を果たすことは知られている。しかし、その地下水の由来(起源)や水質などの特徴は詳細に明らかにされていないのが現状だ。また、河川内で湧出する地下水の影響がどの程度、河畔を含む周辺の食物連鎖に波及するかについては、情報が不足している。

特に、人間活動が活発な都市河川では、水循環経路や水質が時代とともに改変されているが、過去からの環境変遷に関連させて現状を理解できれば、今後の河川環境の保全や管理に重要な示唆を与える。

豊平川及び近隣の主要な流域と、豊平川中流域の集中調査区間を対象に、対象とする湧出地点からの湧出水や河川水に加え、多地点で河川水や湧水を採水した。水試料に対して水安定同位体比分析を実施し、湧出地下水の空間的な起源を推定した。

また、河川水や地下水について窒素などの濃度を測定し、水質を特徴づけた。さらに、河川と河畔域の生物(付着藻類、水生昆虫幼虫、徘徊性無脊椎動物など)の現存量や個体数などを測定し、地下水がこれらの生物に与える影響を可視化した。

こうした研究の結果、豊平川や近隣の主な支流の河川水には、採水地標高に応じた特徴的な水安定同位体比が確認され、対象とした地下水はおよそ標高200メートル程度の流域に起源を持つと推定された。

このことは、上流の豊平川からの伏流した水が対象地下水の起源でないことを示す。一方で、過去の航空写真と微地形を検討した結果、都市化により姿を消した支流が合流している地点と湧出地点が合致。時代とともに消えた〝幻の河川〟がいまだに地下水脈で水を供給していると考えられる。

また、一次生産者である付着藻類や、河畔のアリや甲虫などの無脊椎動物の個体数が、地下水湧出地点の周辺で高くなった。硝酸態窒素などに富んだ地下水が栄養源となり、食物網にボトムアップの影響を与えたことで説明でき、都市化の影響が考えられる。

河川に関わる水の流れと水流に伴い移動する物質の動きや性質の理解は、河川と河畔生態系の仕組みを理解するための必須事項。これまでも、豊平川を含む扇状地河川中流域では、湧出する地下水は同一河川上流からの伏流水の湧出であると考えられてきた。この研究の成果により、起源が現在は目には見えない過去の支流であり、河川・河畔生態系へ影響を与え続けていることが明らかになった。

このことは、現在の河川環境の保全や管理を考える際に、歴史を遡ること、さらに、地下や物質の流れを可視化することの重要性を示すものといえる。また、この研究の調査対象とした区間はシロザケが多産卵する場所に該当することから、地下水とシロザケの関係を明らかにする研究への展開が期待される。


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