(国研)水産研究・教育機構と宮崎大学は、沖縄県の石垣島と西表島の間に広がる日本最大のサンゴ礁「石西礁湖」の全域で、東京工業大学との共同研究により、網羅的な採集調査を実施した。オニヒトデの大量発生は、沖縄を含め世界中のサンゴ礁の衰退の主な原因となっているが、オニヒトデ幼生の詳細な生態については明らかになっておらず、サンゴ礁のどこにどれくらい分布するのかも分かっていなかった。今回の研究では、DNA判定技術により、採集したプランクトンサンプルの中からオニヒトデ幼生を同定することで、幼生の定量的検出に成功し、高密度のオニヒトデ幼生集団が特定の場所に分布することを世界で初めて明らかにした。この集団の94%が稚ヒトデの前段階の幼生で構成されており、高密度の状態で特定の場所のサンゴ礁に着底して、大量発生の引き金となっている可能性も示唆された。この研究成果については、今後、オニヒトデの大量発生のメカニズムを解明する上で重要な一歩になると期待されている。
グレートバリアリーフ消失の原因の42%がオニヒトデの大量発生
近年、世界中でサンゴ礁が消失し、大きな環境問題となっている。消失の原因は明らかではないが、台風の来襲やオニヒトデの大量発生、サンゴの白化現象などが主なものと考えられている。
その中でも、オニヒトデの大量発生は深刻な問題となっている。世界最大のサンゴ礁と言われるオーストラリアのグレートバリアリーフでは、過去20年間で約半分が失われたが、その消失の原因の42%がオニヒトデによるものであるという試算結果もある。また、日本の沖縄本島周辺など、オニヒトデの発生が慢性化している地域では、サンゴ礁の消失だけでなく再生を阻む要因としても問題になっている。
未だ解明されていないメカニズム「栄養塩仮説」に集まる注目
問題となっているオニヒトデの大量発生のメカニズムは、未だ完全には解明されていないが、「栄養塩仮説」という仮説が注目されている。この仮説は、グレートバリアリーフのサンゴ礁で、オニヒトデの大量発生が大規模な洪水の数年後に起こる傾向があることなどから提唱されている。
その仕組みは、洪水などで陸から栄養塩がサンゴ礁に供給されて、オニヒトデ浮遊幼生の餌となる植物プランクトンが急増して幼生の生き残りが高まり、大量発生につながるというもの。さらに、栄養塩の量は、生活排水や農業、畜産業の排水によっても増加するため、現代の人口増加や産業拡大に伴って、大量発生も頻繁に起こるようになったのではないかとの指摘もある。しかし、オニヒトデ浮遊幼生の野外での分布を詳細に調査した例は皆無で、ごく最近の研究で幼生が広範囲に分布することが示された程度である。
日本最大のサンゴ礁全域をカバーする集中的な採集調査を実施
こうした状況の中、水産研究・教育機構と宮崎大学は、東京工業大学と共同で、沖縄県の石垣島と西表島の間に広がる石西礁湖と呼ばれる日本最大のサンゴ礁全域をカバーする集中的な採集調査を実施し、オニヒトデ幼生の分布傾向の探索を行った。
ヨナラ水道で高密度の幼生集団を発見 集中的に分布していることを示唆
研究では、オニヒトデが発生している石西礁湖周辺を中心に、16地点での幼生サンプリングと30地点での栄養塩、クロロフィル濃度の測定が行われた。幼生の同定は、形態的には困難なため、DNAを用いた種判定技術が用いられた。
その結果、礁湖の内側と外側を結ぶ最大の水道であるヨナラ水道で、50個体/㎥(立方メートル)を超える高密度の幼生集団が発見された。その他の地点では、1㎥あたり0個体か1個体だったので、オニヒトデ幼生が極めて集中的に分布していることが示唆された。また、高密度の集団の90%以上が着底寸前のブラキオラリア幼生だったことから、同時に大量の幼生加入が起こるとが、大量発生につながるという可能性が明らかになった。さらに、台風前と台風後に調査を実施した結果、台風後は高密度の集団が消滅していた。
この研究成果は、オニヒトデ幼生の高密度集団を発見した世界で初めての例である。今後、オニヒトデの大量発生のメカニズムを解明する上で、重要な一歩となると期待されている。